日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ちひろさん』
『ちひろさん』 第5巻
安田弘之 秋田書店 ¥400+税
(2016年7月15日発売)
元・風俗嬢で、現在は海辺の小さなお弁当屋さんで働く女性・ちひろの生き様を一話完結スタイルで描く、シリーズ最新刊。
人と話すのが苦手で母親と共依存気味の箱入娘、廃墟となった食堂を秘密基地にしているはみだしっこ、仕事に疲れた小学校教師……。
既巻同様、「世間の常識」にとらわれながらも、なんらかの違和感や生きづらさを感じている人々がちひろとの交流によって、ほんの少し変わってゆく様が描かれてゆく。
あっけらかんと毒とユーモアを吐きながら、飄々と気ままに生きるちひろは、じつは人並み以上の孤独や空虚を抱えているのだが、それを当然のものとして受け入れているからこそ、社会の常識やしがらみから自由で毅然としていられるのだろう。
こんなふうに生きられたらいいなあ……と魅了されずにいられない。
本巻では、ちひろと絶縁した母親との関係、かつて好きになった男性とのエピソード、OL時代のことなど、これまで描かれなかった彼女の過去も少しずつ明らかにされる。
どんな人でも最初からそうだったわけではなく、そうなるべき背景があった。
人を理解するということは、そういったすべてをまるごと受け入れることなのだ。
風俗嬢奥義の「肉体(カラダ)と精神(ココロ)の接続OFF」には、目からウロコ!
私たちは往々にして人間関係を円滑に運ぶため、自分の感情や本能を押し殺して行動することがある。そのこと自体は一概に否定すべきものではなく、他人同士が心地よい関係を築いてゆくうえでの処世術であり、「やさしさ」でもあるのだが、それでも接続OFFのほうが長いような生き方はやっぱり異常だし、どっかでガタが生じても、むしろ当たり前だよな~としみじみ。
ラクで楽しい生き方って、たんに我を押し通すこととも違う。
他人を受容しながらもムリはしない「ちょうどいい自分」を、あなたもちひろといっしょに探してみませんか?
<文・井口啓子>
ライター。「月刊ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69