日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『おれはたーさん』
『おれはたーさん』 第1巻
朝倉世界一 KADOKAWA ¥780+税
(2016年7月25日発売)
大きな夢とひそかな誓いを胸に街へやってきた、元ターザンの“たーさん”の日々を描く、朝倉世界一の新連載。
憧れの都会でマンションに住み、洋服を着て、iPhoneなど便利なモノに囲まれてアーバンライフを満喫するたーさん。楽しい仲間もできて、仕事もそれなりに順調で、ジャングルのことなどすっかり忘れたように見える彼だったが――?
まずはなんといっても、たーさんをはじめとする登場人物が愛らしすぎる。
みんないい人なんだけど、価値観や考え方は少しずつ違って、その小さなズレをほほえましく笑い飛ばせることもあれば、ネガティブに転がって違和感や亀裂を生みだしてしまうこともあって、でも、それなりに平和に日々は流れていって……。
ピースフル極まりないクスッと笑える会話のなかで、ちくりと「人生の機敏」をとらえてみせるあたりは、さすがの朝倉世界一ワールド。独特のゆる~い絵もあいまって、心のやわらかな部分をこれでもかと突かれまくる!
中盤で、かつてのたーさんは、みんなのためにジャングルの平和を守るんだ! と、自らがヒーローであることを信じて疑わなかったが、しだいにジャングルの仲間から「たーさんが来てから争いが絶えなくなったよ……」と非難されるようになった過去が明かされる。
そこで、かわいいキャラクターたちが和気あいあいと暮らす、ほのぼのファンタジーかと思っていた読者は、この世界がどうやら私たちが生きる現実を巧みに照射したものであることに気づき、愕然とさせられるわけだが、その甘いデコレーションは、世界の残酷さをきわだたせるためのものでは決してない。
私たちの世界では、ちょっとしたボタンのかけ違いで悲しい出来事が起こってしまうけれど、だからこそ、私たちには他者を理解する想像力と「夢見る気持ち」が必要なのだ。
今後、たーさんと仲間の関係はどうなってゆくのか。
たーさんは二度と野生に戻ることはないのか?
今後の展開もまだまだ読めないだけに目が離せない!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69