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『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 第200巻 秋本治 【日刊マンガガイド】

2016/10/16


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』


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『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 第200巻
秋本治 集英社 ¥700+税
(2016年9月17日発売)


ついに『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(以下『こち亀』)の連載が終了した。

「週刊少年ジャンプ」1976年の42号からスタートした『こち亀』は、以来40年間一度も休まずに連載を続けてきた。そして40周年を迎えた2016年42号(9月17日発売)に最終回が掲載されると、同じ日に最終回までを収録した単行本200巻が刊行された。

やはり「40年、200巻」という数字には驚かされるばかりだ。
なにしろこの1976年からの40年というのは、子供を取り巻く消費文化のありかたが大きく変容した時代である。この間には何度かのアニメブームがあり、テレビゲームやインターネットが生まれ、オタク文化が熟成されていった。

『こち亀』は、つねにトレンドを作中で取りあげてきた。
200巻でもボーカロイド、ドローン、爆音上映など、最新の流行が題材になっている。『こち亀』をひもとけば若者文化の変遷をたどることができ、それは大量消費社会における生活風俗史としての側面を持つ。
『こち亀』に出てきた小ネタや題材は、日本のサブカルチャー史を紐解く際に、いわば示準化石のような機能を果たすのだ。

新しいものを否定せず、積極的に楽しもうとする両さんの姿勢は、若者文化のトップランナーたる「少年ジャンプ」のマインドを体現するものであった。
なによりも著者本人が「新しいもの好き」で、新しいものを楽しんでいる雰囲気が誌面から漂ってくるところが、その文化の担い手である(であった)読者には心地良く響く。

この最終巻には、中川の両親と麗子の母親が再登場したり、夏春都(げぱると)の亭主の話が出たり、かつては結婚寸前までいった纏(まとい)との疑似家族的な日常風景が描かれたりする。
それはファンサービスとしての側面を持つだけでなく、主要キャラの最終回後の来し方を想像させるものであり、連載終了後もこの『こち亀』ワールドは読者には見えないところで続いていくものだと、読者に実感させてくれるものだ。

『こち亀』は、基本的には非連続的な1話完結型で、いつだれが読んでも楽しめる題材を取り扱いながら、作品世界観とキャラクターを理解している読者に向けたハイコンテクストな楽しみも同時に提供してきた。
なればこそ、最終回は「復活キャラベスト10」という30周年記念回のセルフパロディだったことにも合点がいく。

『こち亀』は最後まで「いつもどおり」だった。その「いつも」は、40年かけて徐々に変化してきたものであるが、多くの読者に「いつもどおりの『こち亀』」の感慨を与えてくれるに違いない。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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