日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『断章のグリム』
『断章のグリム』 第1巻
甲田学人(作) 松坂ユタカ(画) 三日月かける(キャラクターデザイン) 集英社 ¥618+税
(2016年11月19日発売)
ドイツ民話に端を発するメルヘン集『グリム童話』を中心に、世界各地の民俗伝承への造詣と深い考察をベースとしたホラーテイストあふれる「幻想新綺譚」として2006年に電撃文庫よりリリースされた甲田学人のメルヘン小説『断章のグリム』が、10年の時を経てコミカライズされた。
ある日の夕方、マンションで目玉のない女性に襲われた高校生・白野蒼衣(しらの・あおい)は、黒ずくめのゴスロリ少女・時槻雪乃(ときつき・ゆきの)に不思議な力で救われた。
蒼衣は、現実世界に怪異を起こす神の悪夢「泡禍(ほうか)」と、泡禍から人々を救う超能力「断章」の持ち主たちの集まり「騎士団」の存在を知る。
雪乃が所属する「ロッジ」にいやおうなく所属させられた蒼衣は、世話役のアンティークショップ主人・鹿狩雅孝(かがり・まさたか)から、同じ高校1年生なのに命がけで泡禍との戦いに明け暮れる雪乃の“友だち”になってくれと頼まれる。
蒼衣と雪乃のつかの間の平穏は、奇妙な高校生活で始まった――。
第1巻では、この町を蝕みつつある泡禍がグリム童話『灰かぶり』になぞらえたものだと判明するまでを描いており、事件の真相に迫る様子は続刊へと持ちこされる(現在WEB「画楽ノ杜」で配信中)。
リスカするゴスロリ少女や一種の描写芸ともいうべき緻密かつ濃厚な怪奇表現は今のご時勢では画にしづらいのではとも思えたが、なかなかどうして“攻めている”のではないだろうか。
連載時には第4話に存在したショッキングなシーンをあえて冒頭にもってきて、物語のおこりから再び順序だてて再構築するなど、単行本ならではの仕掛けも見られるので、初見の方はもちろん、連載で楽しんだファンも単行本をぜひ手に取ってほしい。
<文・富士見大>
編集・ライター。最近作は『「仮面ライダー」超解析 平成ライダー新世紀』、「東映ヒーローMAX Vol.54」。間もなく発売の『「ウルトラマン超解析」大怪獣激闘ヒストリー!』にも参加しています。