日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『スイートホームシンドローム』

『このマンガがすごい！comics スイートホームシンドローム』
町村チェス 宝島社 ￥780+税
（2017年2月10日発売）

2014年に第5回「『このマンガがすごい！』大賞」を獲得、『フォーカス＆コントラスト』で単行本デビューを果たした町村チェスの新刊が到着！
『フォーカス＆コントラスト』では、カメラ女子×モデルという関係の女の子2人暮らし青春譚かと思いきや、個々の内面を厳しく掘り下げた迫力が尋常ではない……油断ならない作家という印象だ。

本作は、「ばらの花」「魔女の箱庭」「希望の種」という3編から成る連作集。
庭でひとり、丹念にばらの手入れをする初老の男。
一方、妻は家内にこもり、息をひそめるように暮らしている。
美しいばらを咲かせることだけに心血を注ぐ夫、夫婦しか知らないその理由を描く「ばらの花」。
「魔女の箱庭」のヒロインは、セレブなワーキングマザーだ。
ベンチャー起業家の夫、4歳の愛娘と高級マンションに住み、勤め以外にプリザーブド・フラワー講師の顔も持つ。おまけに美人ときているから、メディアに紹介されることもしばしば。
しかし、彼女はだれもがうらやむ女性を演じるゆえに、大きな歪みを抱えていた。

高収入の夫と愛する娘。しかし、突如としてゆり子の「トクベツな日常」は崩れ落ちる。

各話、想像を超える結末が用意されていて……しかし、これは“悪趣味”の物語ではない。
生きていくなかで、知らず知らずのうちにそなえ持っているだろう執着、呪縛の種に気づかされ、ドキリとする。その種は心のなかで根を伸ばし、芽を出し――やがてどんなふうに育つのか。
ハッピーエンドはやすやすとは訪れない。
だけど幸か不幸か、人間はその先も生きていくたくましさを持っているのである。

＜文・粟生こずえ＞
雑食系編集者＆ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」