『兄妹 少女探偵と幽霊警官の怪奇事件簿』第1巻
木々津克久 秋田書店 \429+税
(2015年4月8日発売)
幽霊となった警官の兄と、女子高生の妹のコンビが、人間の愛憎が生み出す事件に挑んでいく。
『名探偵マーニー』(秋田書店/全11巻)の完結後、木々津克久が「週刊少年チャンピオン」で連載を開始したシリーズである。
赤木家の長女・蛍は、「父は工場/母は夜の仕事」と多忙を極めるため、幼い弟・妹(一番下の妹はまだ4カ月だ)の世話や食事洗濯諸々の赤木家の雑用を全てひきうけている。そうした境遇にもめげず、しっかり勉強をして、ミッション系の名門高校・聖マルス学園の推薦入学枠を獲得したデキる娘である。
赤木家には、警官になった長男・圭一がいた。
文武両道、誠実な性格で将来を有望視されていたのだが、交番勤務を終えて、寮へ戻ると言ったきり失踪してしまった。その後、寮の部屋から、遺書めいたものが見つかったことから、捜査は打ち切られた。
遺体が見つからないことから、家族は生存の希望をつないでいたが、蛍は圭一の死亡を確信していた。なぜなら、圭一の幽霊が目の前に現れたからだ。巡査の制服をまとったまま、骸骨になった姿の圭一が……。
幽霊となった圭一は、どんな場所にも出入りができ、目撃したものは、額をあわせることで蛍に映像で伝えることができる。それが蛍の推理のデータとなるわけだ。
そんな便利な能力がある反面、実体がないため、圭一は物理的な攻撃を止めることはできない。しかし、その弱点は蛍が高い身体能力で補う。そうした絶妙なコンビネーションで、兄妹は人の怨念や愛憎が生み出したトラブルを解決していくのである。
前作『名探偵マーニー』でも見られた、事件を通じて友人が増えていくパターンは『兄妹』にも受け継がれている。
兄との確執を解決してもらった同級生・志田リカは、早速蛍の友人となっているし、学内で“恐喝王”と恐れられていた見場創太(このネーミングは、『シャーロック・ホームズの生還』に登場する恐喝王ミルヴァートンのもじりだろう)も、蛍の仲間になりそうな気配がある。
次巻では、第1巻でちょっとだけ登場した同級生・緑川楓との絡みがありそうだし、それ以外にも新キャラが現れるようで楽しみである。
そして、個々の事件の謎に加え、兄・圭一の殺害犯は? というストーリー全体を貫く謎も気になるところだ。捜査が早々に打ち切られた事情からは、警察内部の犯行も疑われる。
この謎の着地点についても注視していきたい。
ちなみに、木々津克久は、自分の作品同士をつなげる遊びをちょくちょくやる。前作の『名探偵マーニー』でも、作品中に『ヘレンesp』の登場人物がちらりと出ていたりしていた。
本書にもそうした遊びはある。例えば、蛍はドクロの髪飾りをつけているのだが、これはマーニーのクラスメイト(波峰りあ)のものと同じデザインだ。
こうした遊びも、木々津作品の楽しみどころなので、第2巻以降も注意しながら読み進めてほしい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。