『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』第1巻
東川篤哉(作)森ゆきなつ(画) 幻冬舎 \630+税
(2015年3月24日発売)
誤発注した大量のオイルサーディンとともに都心のスーパーをクビになった橘良太は、地元・南武線の沿線の武蔵新城で「なんでも屋タチバナ」を始めた。
ある日、画家の篠宮龍也から絵のモデルを依頼された良太は、殺人事件に巻きこまれてしまう。龍也の父親で、高名な画家・篠宮栄作が撲殺されたのだ。
その凶器は、富士山が描かれた絵(正確には、その絵の額縁)。死体発見時、屋敷にいた良太も容疑者のひとりとして、友人である溝ノ口署の刑事・長嶺勇作から尋問を受ける。
しかし、幸いにも篠宮邸を訪れてからは、龍也と行動をともにしていたことから容疑は免れる。
その事件から1週間、良太に子守りの仕事が舞いこむ。その相手は、10歳の美少女・綾羅木有紗であった。
有紗は、しとやかなお嬢様風の美少女であったが、依頼人である父親・綾羅木考三郎がいなくなると本性を現し、「この人殺しめえぇ――ッ」と叫んで良太の顔面に飛び蹴りを食らわせる……。
『謎解きはディナーのあとで』などの東川篤哉の本格ユーモア・ミステリのコミカライズ作品。
自らを「探偵」だと信じる美少女・有紗と、30すぎの平凡な青年・橘良太が、南武線の沿線で発生する事件に挑む、というシリーズ。
原作は、全4編の短編集だが、本書にはそのうちの「名探偵、溝ノ口に現る」「名探偵、南武線に迷う」が収録されている(「南武線-」は半分まで)。
「見た目は子供、頭脳は大人」とは名探偵コナンのキャッチフレーズだが、その言葉にならえば「見た目は子供、頭脳も子供」なのが綾羅木有紗だといえよう。
本書の66ページで、良太を画家殺しの犯人と指摘しながら、反論されると「有紗 間違ってないもん/あれは…/おじさんがやったんだもん…」と泣きそうになる。
このあたりまったくの子どもである。
コナンと違って、ほんとうに子どもである有紗が、ときに泣きべそをかきながら、真相にたどりつくところが本書の読みどころといえようか(推理をするのは有紗だが、手柄は大人である良太が持っていく。このあたりは、名探偵コナンに似ている)
ところで、有紗の基本的な服装は、表紙にもあるような『不思議の国のアリス』を思わせる、ロリータファッションである(良太の衣装は……こちらはあくまでもイメージと理解してほしい)。
ちなみに、今年は『不思議の国アリス』が完成してから150周年のメモリアルイヤーである。
そうした年に、アリスを思わせる美少女が活躍するコミックスを手にとってみるのも、また一興ではないだろうか。
<文・廣澤吉泰(ひろざわ・よしひろ)>
ミステリ漫画研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。