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『ワトソンの陰謀 ~シャーロック・ホームズ異聞~』第1巻 秋乃茉莉 【日刊マンガガイド】

2015/04/08


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『ワトソンの陰謀 ~シャーロック・ホームズ異聞~』第1巻
秋乃茉莉 ぶんか社 \602+税
(2015年3月17日発売)


アーサー・コナン・ドイルによって1888年に生み出された名探偵シャーロック・ホームズは同時代の英国人を熱狂させ、翻訳されるや日本をはじめ各国で評判となったが、その人気は今に至るも衰えることはない。
そして、ホームズと言えば忘れてはいけないのが、伝記作家でありよき相棒でもあるジョン・H・ワトソンの存在である。
こうしたホームズとワトソンのコンビは、ミステリにおいてひとつのパターンを確立し、数々の後継者を生み出した。そうしたなかに、またひとつ新たな顔ぶれが加わった。それが本書『ワトソンの陰謀』である。

横浜学院大学4年生の白木焔は、卒業間際に就職が決まっていた企業が倒産。ラグビー部の寮も引き払ったため、就職先とすみかを一挙に失ってしまう。
教授に泣きついた焔は、破格の好条件のルームシェアを斡旋される。ただし、同居人で、部屋の持ち主でもある渡瀬蒼は焔とは正反対の文科系のインテリタイプの青年であった。

蒼は、日光アレルギーのため、昼間外に出ることは困難であった(その場合は帽子や長い手袋などでの完全防備が必要になる)。
部屋から出られない蒼から、焔は「おつかい」を頼まれるが、それは似顔絵をもとにひとりの女子高生を探してほしいという奇妙なものだった……というのが、2人の出会いとなるエピソード「まだらの紐」の導入部分である。

本書には「まだらの紐」「ボヘミアの醜聞」「踊る人形」の3作品が収録されている。これらは、いずれも<シャーロック・ホームズ>シリーズの原作を21世紀の横浜を舞台にアレンジしたものである。
外出できない蒼にかわって、関係者への聞きこみや現場の調査は焔が行う。焔が集めたデータなどをもとに、蒼が事件の真相を推理する。こうした2人の役割分担だけ見れば、蒼=ホームズ、焔=ワトソンと思えてくる。

ただし、ホームズは部屋で沈思黙考して推理をめぐらすこともあるが、基本的には現場におもむいて、手がかりを集めて、事件の真相に迫るタイプである。
そうした意味からは、活動的な焔のほうがホームズらしいとも言える(ホームズもののパロディには、ホームズは役立たずで、ワトソンがすべて推理をしていた、というパターンのものがあるが、そうした作例を踏まえて、秋乃は今回の設定を創りあげたのであろう)。

単純明快な焔と、なにやら秘密を抱えているように思える蒼――対照的な性格の探偵コンビの動きからは、今後も目が離せない。



<文・廣澤吉泰(ひろざわ・よしひろ)>
ミステリ漫画研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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