『シャーロッキアン!』第1巻
池田邦彦 双葉社 \600+税
1892年10月31日は、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』が刊行された日である。
イギリスの雑誌「ストランド・マガジン」に前年から掲載された12の短編を収録した短編集であり、『シャーロック・ホームズ』シリーズにとって最初の短編集となった。
さて、ホームズ愛好家のことを「シャーロッキアン」と呼ぶのは周知のことだろう。
池田邦彦『シャーロッキアン!』は、ホームズ愛好家の女子大生・原田愛里と大学教授が、『ホームズ』シリーズの物語をあれこれと解釈したり、ホームズ&ワトスンよろしく事件(と呼ぶにはあまりに日常的な出来事)に挑んだりする。
なかでも1巻収録の第4話「ワトスン夫妻の秘密」は、『シャーロック・ホームズの冒険』そのものが題材となるエピソードだ。
書店でアルバイト中の愛里は、『シャーロック・ホームズの冒険』を手にした老婦人と出会い、ワトスン博士の名前に関する“秘密”に気づく。老婦人が病床の亭主のことを「きゅうちゃん」と愛称で呼んでいることが、物語のキーポイントとなるのだが、このあたりの人情の機微は、鉄道マンガ『カレチ』で見せたように、作者の得意とするところ。
ホームズネタが満載なだけでなく、人情話として成立しているので、シャーロッキアンでなくとも物語を存分に楽しめる。
ちなみに、『シャーロック・ホームズの冒険』の最初に収録されている「ボヘミアの醜聞」は、シャーロッキアンのあいだでも人気の高い作品。ホームズが「あの女性」と呼ぶ特別な存在、アイリーン・アドラーが登場することでも有名だ。
『シャーロッキアン!』では第3巻「アイリーン・アドラーの光と影」(前編・中編・後編)でモチーフとしている。また、ベネディクト・カンバーバッチ主演で大人気の英ドラマ『SHERLOCK』にも、第2シーズンに「ベルグレービアの醜聞」という、「ボヘミアの醜聞」を下敷きにしたエピソードが存在する。
間口はさまざま。この機会に、シャーロッキアンに入門してみてはどうだろう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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