日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで』
『さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで』
高田かや 文藝春秋 ¥1,000+税
(2017年1月30日発売)
著者の高田かやは「所有のない社会」などの理想を掲げたカルト村にて生まれている。
親と引き離され、教育という名の体罰と無償労働、ひもじさのなかで生きた小学生時代の実体験を綴り、そのインパクトで『このマンガがすごい!2017』オンナ編18位にランクインした『カルト村で生まれました。』の続編が出版された。
中等部からは「本部」と呼ばれる場所へ移されることになり(もちろん子どもたちは行き先を選べない)、そこで、やっとひもじさから解放される。
といっても、主に家畜用のエサとして持ちこまれた期限切れの食材によって、ではあるが。
世話係の気にさわることがあれば個別ミーティングと称して中学を強制欠席など、前作に引き続き「ありえない!」「ひどい!」のオンパレードで、ぜひ本編や当ウェブサイトのインタビューなどをつぶさに読んでほしいところだ。
そして、優しい旦那様である「ふさおさん」との意外な出会いにも驚いていただきたい。
さて、筆者が気になっていたのが、前作も今作もやはり、常識はずれの過酷な体験が淡々と、かつあたたかいタッチで描きだされていることだ。
被害者として糾弾する方法でも、絶対に共感を得られるだろうにもかかわらず、である。
しかし、著者が村を出ようと決意したきっかけや、最後のひとコマの言葉を読み解くと、このコミックエッセイそのものが、失われた「普通の」子ども時代にささげる子守唄のように感じられてくる。すでに変えられない過去への怒りや寂しさを「所有しない」著者の姿勢が、気高い。
また、カルト村のシステムのなかでも、特に物議をかもしそうな「調整結婚」と呼ばれる、主に40代男性と20代女性の結婚についても触れられている。
しかし、意外にも、当の村の思春期の女子たちは、ウエディングドレスや相手の男性を批判的に品定めするなど、たくましくしたたかである。
かえって、少子化に悩みつつ強い国でありたい日本が20代での出産を称賛する風潮と、根本の部分では相似形ではないかとすら思えてくる。
カルト村を支えるのも、「地球に優しく安全な農産物がほしい」との願いなのだろうし、作中にはおいしそうな描写もある。カルトはただ異常な組織ではない。
人々の持つごく当たり前の欲や夢の延長線上にある。“悪いカルト”をこらしめるカタルシスはなくとも、様々な示唆に満ちた貴重な実録である。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。ちなみに夫はプロテスタント系クリスチャンです。