365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月18日は明治村開村記念日。本日読むべきマンガは……。
『ちくま文庫 東のエデン』
杉浦日向子 筑摩書房 ¥760+税
3月18日は、明治村開村記念日。1965(昭和40)年のこの日、愛知県犬山市に博物館明治村が開村したことに由来する記念日である。
博物館明治村は、明治の建築物を保存展示することを目的とした野外博物館。広大な敷地内には、聖ヨハネ教会堂、札幌電話交換局といった重要文化財をはじめ、帝国ホテル中央玄関、長崎居留地二十五番館など明治の近代化を象徴する建築物が多数。
明治建築といえばレンガや石造りの西洋建築を想い浮かべるが、博物館明治村には、鴎外・漱石が暮らした住宅や小泉八雲の避暑の家など、当時の日本建築も展示されているのがおもしろいところ。
江戸から明治への転換は大きいものであったにしろ、一般人の生活がそう簡単に変わるわけではない。和と洋が入り交じる風景こそ、明治ならではのものであっただろう。
そこで紹介する『東のエデン』は、明治初期の横浜を舞台とした短編集。江戸風俗研究家としても知られる作家が綴るこの物語は、まだまだ江戸の雰囲気を色濃く残している。
表題作は、日本にやって来た外国人の視点で語られる。
木造の簡素きわまりない家、粗末な食事。興味をひくような店もない田舎町。ドイツ人オペラ歌手の演奏会が開かれるも日本人はまったくその芸術性を解していない……と、彼の嘆きは続く。
そんななか、彼と日本人ガイドの男性の、まったくもって日本的な心の交流が浮かび上がるシーンにホッとする佳品だ。
若き書生たちの日常を描く『閑中忙あり』シリーズは、新時代の日本をリードせんとする意気ごみの男子たちを描いているから、当時の息吹がよく伝わってくる。
とはいえハイカラな体験をしたりするわけではないが……たとえば外国人とケンカになったおり、こちらは胸元をつかもうとするのに対し、敵が殴りかかってきた“見知らぬ戦法”に感心したりするのが興味深い。
友人同士の会話のなかで、“世が世なら殿様”を特別扱いしそうになったところで「四民平等!」なんて言葉が飛び出したり。
ああ、きっとこれが明治初期のリアルなのだろう。膨大な知識のうえに成り立つ著者の想像力に感心しきり、ステレオタイプでない明治の風景が見えてくる短編集である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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