秘められた裏設定
―作品内では描かれてはいないけれど、町村さんのなかで、じつはこうだった!っていう裏設定などはありますか?
町村 裏設定というほどのものではないですが、「ゾーンフォーカス」のきょうちゃんは、壊れていくにつれて潔癖症になって、トイレ掃除ばかりしているという設定はありました。これはページの都合でカットしたのですが、ハルが遊びに行くと、きょうちゃんがトイレを磨いているというシーンもあったんです。
解釈の別れた結末
――編集部と打ち合わせをしていくなかで、はじめて自分以外の人に見られたわけですが、どうでしたか。
町村 自分とはまた違った視点で見てくれるのが新鮮でしたね。まずうれしかったのが、「ゾーンフォーカス」の最初の見開きがいいと言われたことですね(笑)。
――序盤でパッと画面に勢いがあるのは、最初の数ページで最後まで読むかを決める読者は多いと思うので、マンガとしてとてもいい構成だと思いました。
町村 それで言うと、今回の作業のなかで、マンガの文法というか、暗黙のルールみたいなのが存在するということに気付いたんですよ。引きの画を最初に見せて、インパクトを与えるなどといった不文律がありますよね。まだまだ把握はできてないんですけれど。
――それは今回みたいに、読者さんがいる場に出していくことで、つかめていく部分だと思いますね。
町村 ほかにも「ゾーンフォーカス」の読後感について、編集部さんのなかでも2通りの解釈があったのがおもしろかったです。ドロっとウェットな感触の読後感の方と、爽やかに大団円で終わったと感じられた方の両方がいたのは新鮮でした。こういう新鮮な驚きが、これから増えていくんですかね。
――少なくとも、感想が割れるということは、いい意味で読者側に解釈を委ねる余白がある作品という証拠ですよね。
町村 どんなふうに読者に読まれるのか、とても楽しみです。
執筆を終えて
――ちなみに発売後、この作品を渡そうと思っている方は周囲にいらっしゃいます?
町村 じつは、まわりの人にマンガを出すことは言っていないんですよね。いちおう旦那は知っていますが、興味なさそうな感じなので、たぶん読まないのではと(笑)。
――とは言いつつも、きっと読みたいと思ってそうですけど。実際作業されているところも見られているわけですよね。
町村 そうなんですが……。もしかしたら旦那は、『魁!男塾』【注2】の同人誌を私がつくっていると思っている可能性もあって(笑)。
――え!? ど、どういうことですか。
町村 じつは作業中、ずっと『魁!男塾』関連の音楽をかけながら描いていたんですよ。旦那は私のマンガは読んでないけど、マンガを描いてるってことだけ知ってて。それで『魁!男塾』の音声が響くなか机に向きあっていたので(笑)。
――(笑)。『魁!男塾』は執筆中のマイブームだったんですか?
町村 そうですね、完全に自分のマンガのリズムとシンクロしました。ずっと同じのを聴きながら描く癖があるんですよね。
――ほかにもずっと聞いていたものってありますか?
町村 「ゾーンフォーカス」は『魁!男塾』だったのですが、「かぜきり団地」のときは気持ちを荒んだ感じにするために、ナンバーガール【注3】の「SAPPUKEI」や「透明少女」をずっと流しながら作業していましたね。
――執筆中にそんな秘話が! ひとりで黙々と作業されていたわけですね。
町村 そうですね(笑)。でも、今となってはひとりじゃかったのかな、って思います。この賞を受賞する前は、マンガというのは描き手と編集者の2人だけでつくるものなんだと思っていたんです。でも、こうして単行本にするにあたって、デザイナーさんが素敵な表紙にしてくれたり、宝島社さんの宣伝の方などが広告をつくってくれたり、こうしてウェブサイトで取り上げて紹介してくれたり。意外とチームでつくるものなんだ、ということを知れました。たくさんの方の親身な対応に本当に感謝しています。だからこそ、いろんな方に読んでほしいです。
――それでは最後にこれから読む方にむけてひとことどうぞ!
町村 言葉にできないものを、描きました。読んでもらえるとうれしいです。よろしくお願いします。
前編はコチラ!
第5回『このマンガがすごい!』大賞 受賞記念インタビュー 町村チェス『フォーカス&コントラスト』【前編】
- 注2 宮下あきらによるマンガ作品。不良にスパルタ教育を施す「男塾」を舞台に、男気あふれる塾生が活躍するバイオレンスストーリー。
- 注3 2002年に解散した日本のオルタナティブロックバンド。2014年5月にはメジャーデビュー15周年を記念してリマスター+ライブ版を発表して話題となった。
取材:編集部 構成:山田幸彦