前回、『このマンガがすごい!』大賞応募の経緯から、受賞までの流れについてのお話をしてくださった町村チェス先生。
今回は、単行本化に向けての作業の苦労や、作品の内容、執筆中に流していた意外なマンガのテーマ曲などなど……受賞後から単行本化に至るまでの、創作の裏話について語っていただきました!
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第5回『このマンガがすごい!』大賞 受賞記念インタビュー 町村チェス『フォーカス&コントラスト』【前編】
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執筆手法と、独特のタッチのルーツ
――さきほどのお話で、「大人になって時間も経ったし、久しぶりに描いてみるかな」と軽い気持ちでマンガを描きはじめたとおっしゃっていましたが、やはり先述の美術の授業のようにアナログでお描きになったのですか?
町村 いえ、デジタルですね。コミスタ【注1】を使いました。
――え。軽い気持ちにしては本格的というか……。コミスタってけっこう高価ですよね。
町村 そうですね(笑)。
――描くと決心したときにコミスタを購入されたんですか?
町村 絵を描こうという気持ちが飛躍してしまって(笑)。でも、じつはコミスタ自体を購入したのは応募した作品を描くけっこう前なんですよ。もちろん購入してすぐにそれを使ってマンガを描こうと思ったのですが、難しすぎて……放置していました。
――買ってすぐ寝かせておいたと。
町村 はい(笑)。実際に描きはじめたのはそれから1年くらい経ってからですかね。マンガ描こうとまたふつふつと思ってきて、「そういえば」と、引っ張り出してきて今回使用したんです。
――なるほど。それから実際に「ゾーンフォーカス」を描くわけですが、なにを参考にして描かれたのですか?
町村 うーーん……いや、わからないまま、我流で描いていました。
――我流ですか。マンガを描き慣れていない方が急にマンガを描くと、単調になってしまったり、逆に要素が入りすぎて主題を見失ってしまうことがあると思いますが、応募作はずいぶんと「マンガ」としてしっかりしていた印象です。
町村 そのへんは、本当にただの勘というか(笑)。 いいほうに転んでよかったです。
――審査員の方々も、とても描くのに慣れている方だという印象を受けていましたよ。そういえばさきほども触れた「独特の間の取り方」にしても、「間を表現するのが苦手」というコンプレックスを克服しようと我流で編み出したわけですよね。
町村 いえ、そんな。本当に偶然だと思います。
――タッチ自体も自然に描いたものが今のものになっていったのですか?
町村 まずはマンガとして成立しなければ、とりあえず描かねば、という気持ちが先行していたので、絵に関しては意識が希薄だったかもしれません。なので、タッチは描き始めた当初からほとんど変わっていないと思います。これから試行錯誤していきたいです。
最後のハルのセリフは、私の気持ちかもしれない
――今回、一番たいへんだったページはどこですか?
町村 「かぜきり団地」の最初に団地が出てくる見開きですね。描く前からきついってわかってたから、ずっとペン入れしたくなくてほったらかしにしていました(笑)。結局、締め切り2日前くらいに嫌々描きはじめましたが(笑)。
――描くのには時間がかかるほうなんですか?
町村 私は描きはじめるまでがすごい長いんですよ。実際、描くとそんなにかからなかったりするのですが。描きはじめるまでが……なんか宿題やりたくない小学生みたいですね。
――逆に、描いてて楽しかったシーンはどこですか?
町村 楽しかったシーンとはちょっと違いますが、「かぜきり団地」で主人公がお母さんに部屋でボコボコにされているシーンとかは、ネームをやっていてノッて作業ができたところかもしれないです。
――ネームを切っているときは、描いているシーンに気持ちも引っ張られるものなんですか。
町村 そうかもしれません。「ゾーンフォーカス」も「かぜきり団地」も淡々としたシーンが多いので、動きのあるところは、お母さんのシーンくらいしかないんですよ。動きのあるシーンは、やはり描いていて熱くなっていたかも。
――こだわりのシーンなどありましたらお話いただけると。
町村 こだわりというか、これは読み返してみて気づいたのですが「ゾーンフォーカス」の最後のセリフは、自分の気持ちがよくでているなぁと思いました。「つぎの夏にはきっと わたしはきれいなものを撮ろう」っていうセリフなんですけど。
――主人公のハルが心のなかで自分に言い聞かせるところですね。
町村 はい。実際、本当にハルは「きれいなものを撮ろう」と思っているんですよ。でも実際に撮っているのは、ちょっと怖いものだったりするわけですけど。そういうところが私を同じだなぁと。私自身、「きれいなお話を描きたい」と思っているんです。でも、そう思って描いているはずなのに出来上がるものは、えげつないものだったり……。これは私が生んだ言葉なんだと思いました。「どうしてこうなった」という感じですよね(笑)。
- 注1 マンガ制作ソフトComicStudio。ネーム、ペン入れ、トーン貼りなどもデジタル環境できる。略称はコミスタ。