昨年(2013年)1月にコミックス1巻が発売されると、
過去と現在が交錯する異色のクライム・サスペンスが
コアなマンガファンのあいだでじわじわと評判になり、
『このマンガがすごい!2014』では15位にランクイン。
単行本最新第4巻が6月4日に発売され、ますますの注目の本作。
今、注目すべき作家・三部けいとはどのような漫画家なのか、3週にわたり徹底インタビュー!
第1週は今の三部先生の基礎を作った荒木飛呂彦先生[注1]
のもとでのアシスタント時代、
そして『僕だけがいない街』の誕生秘話を語っていただいた。
中編はコチラ!
【インタビュー】いま考えているラストは変わるかもしれない……!? 『僕だけがいない街』三部けい【中編】
後編はコチラ!
【インタビュー】伏線リストと分岐が書かれた秘密のノートがある!? 『僕だけがいない街』三部けい【後編】
漫画家への道
――コミックス2巻のオビで、師匠である荒木飛呂彦先生が推薦文[注2]を書いています。あれ、インパクトありましたね。やはり読者としても、荒木先生との関係が気になるのではないかと思います。荒木先生のところでアシスタントになるまでの経緯をお教えください。
三部 高校を卒業したあとに東京デザイナー学院という専門学校に入学しまして、それで北海道の苫小牧から上京しました。
――専門学校ではどういった勉強をされたんですか?
三部 俺が入ったところは商業デザイン科というんです。ただ、もともとは「アニメの背景を描きたい」っていう思いがあったんですね。
担当 それが目標で上京したんですよね?
三部 そうです。中学生のときに、 おそらくテレビでの放映だったと思うんですけど、 『ルパン三世 カリオストロの城』[注3]を見て、その背景を「すげえ」って思ったんです。 それで「この絵がほしい!」と思って、映画のムック本を買ったんですね。 それをずっと読んでいたら、次第に「こういうのを描きたいなぁ」って思うようになりました。 ですから、最初のキッカケとしては「アニメの背景を描きたい」という思いでした。
――でも、アニメーション科ではなく、商業デザイン科に進んだんですね?
三部 アニメーション科だとツブシがきかないと思ったんです(笑)。 それで学校に通うようになったんですけど、結局、朝起きられなくて……(笑)。
――なるほど(笑)。
三部 学校に行かなくなり、ほとんど辞めたような状態でした。
――そこからマンガ方面へとシフトしたキッカケは?
三部 学校に行かずダラダラ暮らしているときに、 「週刊少年ジャンプ」で荒木先生がアシスタントを募集していたんです。
――アシスタント応募以前に、ネームを切ってマンガを描いたりはしていたんですか?
三部 やってないです。ちょっとイラストを描いたことがあるくらいでした。 アシスタントをやっていれば、絵を描けるようになるんじゃないかと思って。 「アシスタントを2年くらいやったら、新人賞に応募してみようかなぁ」くらいの気持ちでしたね。
――それでアシスタントに受かるというのも、すごいですね。
三部 いや、1回落ちてるんですよ。 応募のときに背景のカットを送るんですけど、 絵を描いた経験が少ないから、真ん中から描き始めちゃうんです。 そこから徐々に広げていって、どこまで描けばいいのかわからない。 何日も同じカットを描き続けていたら嫌気が差して、 「もうこのへんでいいかな?」と思ったところで原稿用紙を切って。 そんなものを送っていたので、今にして思えば「そりゃあ落ちるだろうな」って思います(笑)
――では、一度落ちてから、もう1回応募したんですか?
三部 そうです。最初に送ってから連絡がなかったので、 「届かなかったのかな?」と思って、もう1回送ったんですよ。 そうしたら荒木先生の担当さんが、 「こいつは2回も送ってくるんだから、相当ヤル気がある」と思ってくれたみたいで。 だからあの時2回目を送っていなかったら、いまマンガ家をやっていないかもしれないです。
――それはやっぱり“荒木先生だから”応募したんですか?
三部 当時、すでに『ジョジョの奇妙な冒険』は連載を開始していましたけど、 そんなに熱心に読んでいた記憶はないんですよね。でも『ジョジョ』って、 すごくいろいろな背景や小物を描いているじゃないですか。
――外国が舞台でしたし、少年マンガとしては異質でした。
担当 出てくるものも、画一的じゃないですよね。
三部 そう、ほかのマンガよりバラエティに富んでいますよね。 もともと俺は「背景を描きたい」という気持ちがあったから。 荒木先生の下では、『ジョジョ』の第2部から第5部アタマくらいまでお手伝いしたんですけど、 結果的に自転車やら潜水艦やら、なんでも描きました。
- [注1]荒木飛呂彦先生 ご存知『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで有名な漫画家。
- [注2]推薦文 「三部さん、JOJOの三部を手伝ってくれてありがとう。なつかしいね。」との推薦文。本当は三部先生は『ジョジョ』の第2部からアシスタントをされていたが、語呂合わせのために「三部を~」と改めてもらったとか。
- [注3]『ルパン三世 カリオストロの城』 アニメ『ルパン三世』の劇場版第2作。宮崎駿の映画初監督作品。1979年12月初公開。三部先生は、劇場では見ていないとのこと。