前編では『僕街』誕生秘話を語ってくれた三部先生。そうなってくると気になるのは、今後の展開。三部先生はいったいなにを思い描きながら『僕だけがいない街』という物語をつづっているのだろうか? 三部先生に今後の『僕街』について語っていただいた。
前編はコチラ!
【インタビュー】師匠・荒木飛呂彦との関係は……? 『僕だけがいない街』三部けい【前編】
後編はコチラ!
【インタビュー】伏線リストと分岐が書かれた秘密のノートがある!? 『僕だけがいない街』三部けい【後編】
印象的なタイトル
――『僕だけがいない街』というタイトルが印象的です。
三部 作品の全体のイメージができたときに、タイトルが先にできたんですよ。いくつか案があったなかで、自分としては「これだ!」と思いました。だけど「客観的にはどうなんだろう?」と思って、担当さんに相談してみたんです。そうしたら「いいですね」と言ってもらえて。
担当 この作品の内容のイメージを表すには、『僕だけがいない街』はいいタイトルだなぁ、と。文芸の臭いがするタイトルというか、あまり「ヤングエース」にはないものですから。
三部 少し前のドラマだと『Mother』[注1]ってありますけど、タイトルを聞いただけで「母親のことを描くんだな」ってわかりますよね。俺もそういうストレートなタイトルが好きなんですけど、自分の性質なのか、何かを想像させるようなタイトルのほうが思い浮かぶんですよ。
ストーリーはどこまで完成している!?
――物語の全体の構成は、もう決めてあるのでしょうか?
担当 コミックスの構想は比較的早く決まりました。1巻ではどこまで物語を進めるかを決め、そこから各話のエピソードを詰めていく感じですね。
三部 俺は母親が死ぬところまでを1巻だと考えていたんです。でも担当さんから「前の時代にさかのぼるところまで入れられないか?」と相談され、俺も「なるほど。そっちのほうがおもしろい」と思ったんです。それが4話目を描いているときだったので、4話目から急に話がスピードアップしてるんですよ。
担当 チェンジ・オブ・ペースというか、1巻の終わりまでいくと、それまでとはまったく違う世界が始まりますからね。1巻の終わりまで読んでもらえれば、このマンガをおもしろいと思ってくれるはずでは、と考えていました。
――たしかに衝撃的でした。いまストーリーは、どれくらい先まで完成しているのでしょうか?
三部 まだあんまり決めきってはいなんですけどね。話を考えるときは、途中でストーリーが枝分かれして、いくつもの結末ができあがるんです。そのなかから最終的に何を選択するか、という話ですね。
――ではラストがどうなるか、先生自身にもまだわからない、と。
三部 ラストを決めてない……というわけではないんですが、そう大きく違わないモノがいくつかある感じ。先々を考えてネームを考えるんですけど、そこからまた分岐してしまう。毎回ネームを書くときに、頭のなかに4個も5個も枝分かれしたものがあるんです。
――むかし流行ったゲームブックみたいな感じでしょうか?
三部 まさにそんな感じです。だからエンディングも、何パターンか考えてますよ。
――第1巻のあとがきでは、ストーリーに関しては「計算とアドリブで半々」と書いてました。
三部 今この場で「ラストまで話して」と言われたら、話せるんですよ。でも、その通りの内容になるとは限らない。エンディングが変わるかもしれないし、あるいはラストだけ一緒で途中すべてが変わるかもしれない。
担当 極端な話「次回こうなります」と話したところで、いきなり変わる可能性もありますよね。
三部 たとえば「ヤングエース」3月号掲載の「#21【隠れ家 1988.03】」(単行本第4巻収録)では、バスが出てきます。バス以外にも、別の場所という選択肢もありました。どれを選ぶかは、ネームをやる直前に決めるんですね。
――その選択で迷うことはないですか?
三部 結果的に「こっちを選んで良かったな」と思うことはあります。以前は「こっちじゃなかったかな?」と思うこともあったんですけど、この作品(『僕街』)に関しては、ないです。こんな風なやり方なんです。
――では物語が進んだことで、かなり選択肢も絞られてきたんじゃないでしょうか?
三部 そうかもしれません。ただ、今考えているラストを、自分ではそこまで重視していないのかもしれない。たとえば今から半年後であれば、その半年分の経験を積んだ自分であれば、もっといいものを考えつくかもしれない。そういった余地を残しながら描いている感覚はあります。
- [注1] 2010年に日本テレビ系列で放映されたドラマ。主演は松雪泰子。