どうしても気になる! 『げんしけん』との関係は?
――近年は、マンガやエッセイ作品などで、「腐女子だけど恋愛も結婚もできます」というアピールの作品が多いと感じます。一方、男性のオタクが主人公では『Spotted Flower』のような幸せな結婚をしている作品は少ないように思うのですが。
木尾 腐女子が幸せな結婚や恋愛をしている話は、女性からも男性からも夢のある話ですが、男オタクの場合……そんな話はどちらから見ても憎たらしいだけだからじゃないでしょうか。
――多くの方から聞かれていると思いますが、本作の“夫”と“妻”を見ていると、どうしても『げんしけん』[注3]の斑目と咲ちゃんを思い浮かべてしまいます! ヘタレなオタク男と、一般人だけどオタクサークル仲間だったためにオタクにそこそこの理解がある強気な女性という設定からして……。
木尾 「恋愛」「オタク」というキーワードからでキャラを作っていった結果、なんだか近いものができあがってしまった、というのが真実です。引き出し少ねー、と思いつつも、まぁちょっとしたお遊びのつもりでああいうタイトルをつけたり。
――“Spotted”が「斑」で、“flower”が「咲」を表している、と。
木尾 最初は読み切りのつもりでしたし、だれか気づけばいいかな、くらいの気持ちで。編集長も、入稿後もしばらく気づいてませんでした。
――本作は『げんしけん』のスピンオフ的な気持ちで描かれているのでしょうか。
木尾 いえ、最初からそういう企画ではありませんでしたし……もしそうなら絶対やりませんよ、こんなしかけは。
――つい『げんしけん』の斑目くんに思い入れるあまり……パラレルワールドで咲ちゃんと結ばれたらな、と勝手に期待してしまうんですよ! 性生活に貪欲な“妻”の態度も、咲ちゃんを連想してしまって。
木尾 描いてて楽しかったのは縞パン話でしょうか。いいですよね、縞パン。
――どんなハードなプレイでもやってやるとタンカを切る“妻”が、いざ縞パンをはかされると赤面しちゃう、という構図こそ一般人とオタクの違いを表しているように思います。
先生の奥様からの反応は…… 「エロすぎで引く」!?
――刺激的なシーンや会話が目白押しですが、私個人としては7話の女性同士の赤裸々なトークの回がインパクト強かったです。同性であっても育児経験がないと……正直なところ、人前で授乳する場面を目の当たりにすると「うわぁ!」とあたふたしてしまうので。
木尾 7話はちょっとやりすぎたかな、と思ってます。家内からは「エロマンガ」「引く」と言われました……。10話もです。右手を骨折した夫が口でしてほしいと頼む回。
――なんでもぶっちゃけて言う奥さんならではの本音トークが、照れくさくもたまらなくおもしろいです!! 4話の「名づけ」に関わるエピソードも楽しかったです。オタクの世界ではこれに近いことは現実にありそうで。
木尾 なんであのおばあちゃんはあんなに知ってるんでしょうね。ダンナに気をつかってくれたんでしょうけど。
――いちおう未読の方のために伏せますが、オチも爆笑ものでした!!
木尾 ああいう話をやってしまうと、いずれ劇中で名前を決定しなきゃならないかな、と思案中です……。
――作中で、木尾先生ご自身の「心の叫び」のようなものはありますか?
木尾 ありすぎて(笑)。マンガってそういうものでしょう?
――出産や育児に関するエッセイマンガなどはお読みになりますか?
木尾 大久保ヒロミさんの『赤ちゃんのドレイ』[注4]がおもしろかったですね。
――この先のは妊娠・出産・育児まで描かれることになるのでしょうか?
木尾 連載するつもりじゃなかったので、基本毎回ネタがない状態から……編集長と飲み食いしながらネタ出ししてます。まあ、いつまでも妊娠させっぱなしというわけにもいかないな、とは思ってます。
――読者の方からはどんな感想が寄せられていますか? 女性読者、男性読者それぞれの感想があると思うのですが。
木尾 あえて、あまり聞かないようにしています。それはこのマンガに限らず、いつもそんな感じです。
- 注3 『げんしけん』 2002年から2006年に「月刊アフタヌーン」(講談社)にて連載された木尾作品。2010年12月号から『げんしけん 二代目』として連載が再開された。「げんしけん」こと「現代視覚文化研究会」というオタク文化を研究する大学サークルを舞台に、オタク大学生の日常と恋愛を描く。アニメ化もされるなど大ヒットし、作者の代表作となった。
- 注4 『赤ちゃんのドレイ』 2005年から2010年まで「Kiss」(講談社)にて連載された大久保ヒロミの育児エッセイマンガ。育児に奮闘する母親の姿を時にコミカルに時に幸せに描き、多くのママさんたちから支持されている。
独自の道を歩み続ける木尾先生のマンガへのあふれる愛がほとばしるインタビュー後半もお楽しみに!
取材・構成:粟生こずえ