「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『無限の住人』
『無限の住人』沙村広明
『無限の住人』第1巻
沙村広明 講談社 ¥514+税
(1994年9月19日発売)
ついにベールを脱いだ実写映画版『無限の住人』(三池崇史監督)。なにせ映画化が発表されたのは2015年10月。
1年半もお預けを喰らったぶん、鑑賞のハードルも上がったが、期待を上回る迫力のアクション時代劇に仕上がっていた。
『無限の住人』といえば、『波よ聞いてくれ』(「このマンガがすごい!2016」オトコ編6位)でもおなじみ、沙村広明のデビュー作にして代表作。「月刊アフタヌーン」にて同名の読み切り作品が発表されたのは、もう4半世紀近く前のことになる(1993年8月号)。以降、2013年2月号までじつに19年半にわたって連載が続いた大作だ(作中の時間は、さほど流れていないが)。
物語は不死の肉体を持つ隻眼の剣士・万次(まんじ)が、剣客集団・逸刀流(いっとうりゅう)に両親を斬殺された少女・浅野凜(あさの・りん)と出会ったことから動き始める。かたき討ちを誓う凛が、万次に用心棒を依頼したことで、凄腕の剣士をズラリと揃える逸刀流との死闘が開幕するのだ。
連載当初“ネオ時代劇”なる異名をとった本作の特徴は、なんといってもトリッキーなバトルシーン。なにせ主人公の万次は腕を切られても足を切られても再生可能! だからして普通の人間とは戦い方(主に防御の仕方)もまったく異なる。しかも相手から奪った複数の刃物で、とんでもない攻撃を仕掛けていくのだ。
従来の剣技にとらわれず、あらゆる武器をもちいて必勝を期す逸刀流の猛者たちも負けてはいない。長剣を操る巨漢・黒衣鯖人(くろえ・さばと)、カラクリ刀で意表をつく凶戴斗(まがつ・たいと)、虚無僧ルックが不気味な閑馬永空(しずま・えいくう)……。ルックスから戦闘スタイルから性癖から、一筋縄ではいかない変態剣士ばかりだ。
物語に濃厚なコクを与えている最大のポイントは、逸刀流が単なる残虐なアウトロー集団として描かれていないこと。「一対一で戦うこと」を信条に掲げており、たとえ強敵が現れても四方八方から大勢で斬りかかるようなことはしない。
逸刀流の統主であり、凛の最終目標である天津影久(あのつ・かげひさ)の目的は、あらゆる流派の垣を取り除き、武の再生を図ること。非道な行為は旧態依然とした道場に逸刀流の力を誇示するため。逸刀流も自分たちの正義にもとづいて行動しているのだ。
ここに金髪の女・百淋(ひゃくりん)と狂気の男・尸良(しら)を擁する謎の勢力・無骸流と、幕府新番頭の最強剣士・吐鉤群(はばき・かぎむら)が加わり、バトルロワイアルの様相を呈するのだから、さぁたいへん。そんな群雄割拠で複雑怪奇な混戦模様のなか、「めんどくせぇ」とボヤきながらも、凛を守るためだけに戦い続ける万次のブレのなさがたまらなくかっこいい。
映画の公開にあわせて順次リリースされていた新装版も、先ごろ発売された第15巻をもって完結。未読の方はこれを機に万次と凛の壮絶な旅路を、ぜひとも紐解いてほしい。圧倒的な画力と卓抜した演出力、イキなセリフの数々にビリビリとシビれること請け合いですよ!
『無限の住人』のほかに、このマンガもおすすめ!
『シグルイ』山口貴由(漫画)南條範夫(原作)
『シグルイ』第1巻
山口貴由(漫画)南條範夫(原作) 秋田書店 ¥552+税
(2004年1月22日発売)
『無限の住人』とは違ったアプローチで、従来のアクション時代劇とは一線を画した作品。
南條範夫の『駿河城御前試合』第1話「無明逆流れ」を、山口貴由が大胆に解釈した残酷無惨な物語だ。
隻腕の藤木源之助と盲目の伊良子清玄、かつて同じ道場で”双竜”と呼ばれた2人の剣士が激突するシーンを皮切りに、その残酷極まりない因縁がひも解かれていく。
武士道に流れる狂気を抉り出した衝撃の怪作である。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。『アフロ田中』『俺はまだ本気出してないだけ』『TOKYO TRIBE』『新宿スワン』『アイアムアヒーロー』など、漫画原作の劇場用作品プログラムに多数参加。