日夜、注目のマンガを紹介する「このマンガがすごい!WEB」。そんななかで、いつものレビューと違う特別なレビューが……!!!?
ということで、読者の皆さんから大変な注目を集めている連載企画、中島かずきの「このマンガもすごい!」!
脚本家・小説家・漫画原作者として知られる、あの中島かずきさんによる、「このマンガがすごい!WEB」だからこそ可能な、マンガコラム企画の連載!
中島かずきさんといえば、劇団☆新感線の座付き作家としての活動を筆頭に、アニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』のシリーズ構成や、TVシリーズ『仮面ライダーフォーゼ』のメイン脚本など、マルチな活躍を続ける当代随一のクリエイター! 本WEBサイトの読者の皆さんも、くり返し観た中島さんの作品は多いのでは!?
そんな中島さんが注目する、新旧マンガ作品について、アレやコレやと語り尽くす本企画! その作品、そして、クリエイターならではの視線とは……!?
今回「すごい!」のは……この作品だ!!
『少年の名はジルベール』
竹宮惠子 小学館 ¥1,400+税
今回は、非・マンガ作品ながら、近年のマンガ関連ニュースを語る際には外すことのできないであろう、大きな話題となった少女マンガ界のレジェンド・竹宮惠子先生の自伝『少年の名はジルベール』です!
「少女マンガで革命を起こす!」、そんな若き日の竹宮先生の思いが綴られた本作に対して、中島さんは何を思ったのでしょう?
たまたまネットで竹宮惠子の明治大学での講演記事を見かけた。
明治大学リバティアカデミー竹宮惠子講演『マンガはなぜ人を惹きつけるのか』。漫画家を目指した経緯やプロデビューしてからのエピソードなどが語られているのだが、特にデビューまで、昭和40年代の地方の若者がどうやって漫画家になろうとしたかが、「そうそう、そうだった」とすごくうなずけたのだ。
当時、福岡の片田舎に住んでいた僕にとって、文化は東京などの大都市にしかなく、そこと自分との距離感は果てしないものがあった。
情報を得ようにもネットの欠片もない。本を読んでそこから関連書籍をたどっていこうにも、片田舎の書店にある本はかぎられていて、注文しても届くのは3カ月後だったりする。話の合う同好の士を探すのも難しい。 今では信じられないほど、都会と田舎では情報格差があったのだ。竹宮惠子の講演のなかで「マンガに導いてくれた3冊」として、秋田書店刊行の名著『マンガのかきかた』(冒険王編集部編、1962年)、『マンガ家入門』(石森章太郎[現:石ノ森章太郎]著、 1965年)、『続・マンガ家入門』(石森章太郎著、1966年)を挙げられているが、当時、マンガに興味がある人間にとって、この3冊は本当にバイブルだったのだ。
僕も何度も何度も、繰り返し読んだ。漫画編集者時代、担当した漫画家の本棚に読みこんでボロボロになった『マンガ家入門』があり、しかも赤線を引いているページを見つけたりした時は、「そうだよねえ」と語りあったものだ。 マンガ界を代表する大ベテランのひとりである彼女も、同じような青春時代を送ったのだなあと思うと、うれしくなった。そういえば竹宮惠子の『少年の名はジルベール』は、去年読んだ本のなかでも、トップクラスでおもしろかった本だった。
“花の24年組”という言葉がある。
竹宮惠子、萩尾望都、山岸凉子、大島弓子……。
1970年代、新人だった彼女たちは自分たちが本当に描きたい世界を模索し、少年を主人公にし、SF的な作品や非日常を舞台にした作品を意欲的に発表していき、それまで少女が主役でなければ駄目、親子関係や恋愛関係など日常を舞台にしたものでなければ当たらない、などといわれていた少女マンガを変えたといわれる世代だ。
だれが名づけたのかは知らないが、昭和24年前後に生まれたので、“花の24年組”と呼ばれていた。彼女たちがこの呼ばれ方に抵抗を感じる方もいるとあとで知ったが、昭和34年に生まれた僕にとっては、10年先に生まれた先輩が新しいマンガの地平を切り開いていく、憧れの存在を象徴する呼び方だった。
その彼女たちの拠点が“大泉サロン”。
竹宮、萩尾が大泉のアパートに同居し、その部屋に山岸や坂田靖子など同世代の女性マンガ家が出入りした所からこう呼ばれる。いわば女性版“トキワ荘”。これもまた僕ら世代には伝説である。『少年の名はジルベール』は、この“大泉サロン時代”を中心とする竹宮の自伝だ。
あの時代の空気感や若い時期の己の才能への不安など、「ああ、わかるわかる」と頷いているうちに、著者が創作の地獄に足を踏み入れたことに気づかされる。何より、萩尾望都という己を上回る才能を前にして焦り、追いこまれながら、自分の手法を掴んでいくさまを冷静に客観視して描いているのがすごい。“大泉サロン”のキーマンに竹宮の友人で、マンガ原作者や作家、音楽評論家として活躍する増山法恵がいる。竹宮のプロデューサーとして作品づくりにも関わる増山だが、本当は萩尾のほうがセンスは一致する。この微妙な三角関係がまたドラマティックだ。
憧れだった“大泉サロン”の裏で彼女がこんなに苦しんでいたとは。
当時萩尾望都派だった僕も、いや、萩尾望都という天才が開花していくさまにリアルタイムで立ち会った世代だからこそ、竹宮の苦しみは非常によくわかるのかもしれない。ただ、それをこんなふうに文章に書けるのも、やはりすごい才能だ。
すべてのクリエイター及びクリエイター志望の方に強くおすすめする。自身が描きたくて仕方がなかった少年愛という世界をなかなか理解されない時代に、『風と木の詩』という作品をどうやって連載に持ちこんだか、その戦略的思考を知るだけでも勉強になると思う。
伝説の“大泉サロン時代”を描ききった自伝作品。近年、マンガ関連書籍の出版も増加していますが、本作は少女マンガという世界を読み解くための貴重な資料でありつつ、漫画家という職業の極限状態や青春の苦悩も描いた、著者のマンガと同様にドラマティックな読み物となっています。
少女マンガに疎かった方も、今回の中島さんの記事を読んで、だいぶ興味が出たのでは?
『「風と木の詩」厳選複製原画集 少年の詩』
竹宮惠子 宝島社 ¥3200+税
さてさて、マンガ関連書も登場した本連載、次回はいったい、どんな作品が登場するのでしょう? 編集部スタッフも皆さんと同じく、気になっている真っ最中! 乞うご期待です!!