著者の田亀源五郎は、筋肉質の男性の裸体美、ゲイのエロティシズムや様々なフェティシズムをテーマにしたイラストやマンガ作品で海外でも高い評価を受けているゲイアートの巨匠。国内での活動は、これまで「さぶ」「薔薇族」「Bad」といったゲイ専門誌が中心で、本作での「一般誌デビュー」は「事件」と呼ぶにふさわしいできごとらしい。
そんなゲイ界の重鎮が、ガチムチの男2人が主人公とはいえ、ゲイを異端者のように見てしまうノンケが主人公の作品を描くことは一見意外にも思えるが、あえて斜にかまえることなく読者(本作の場合は=ノンケ)に歩み寄り、リスペクトを払いつつ、率直な言葉で語りかける著者の姿勢には、ゲイアートの巨匠ならではの揺るぎないプライドと大らかなフェアシップが、脈々と感じられる。
弥一が自らのゲイへの拒絶反応を「天ぷらの寿司」に重ね、「今はまだ味も喰い方もわからない」と考えるシーン。あるいは、よしながふみ『きのう何食べた?』でも描かれた「どっちが男役でどっちが女役問題」について「俺……何も 判っていなかったんだな……」とつぶやくシーン。
「ゲイ/ノンケ」といった差異を超えて、あらゆるセクシャリティやジェンダーにまつわる疑問や違和感をポップに提示し、読者のなかの「当たり前」を気持ちよ~く壊してゆく手練は、さすがというよりほかない。
第1巻ラストでは、弥一の家庭の意外な事実も明らかになり……。
どうやら、セクシャリティのみならず「新しい家族のありかた」についての物語になりそうな予感大で、橋口亮輔の映画が好きな人にもハマりそう。
小難しさは皆無ゆえ、小中学生はもちろん政治家の方々にもオススメしたいです。
『弟の夫』著者の田亀源五郎先生から、コメントをいただきました!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69