現在は川崎で肝っ玉母ちゃんとして平穏に(!?)暮らす、亘江の意外な過去に著者が驚愕する姿は、まさにマンガ版『ファミリーヒストリー』といった感じ。
なかでも印象的なのが、亘江の母の大物っぷりだ。彼女が随所で亘江に語りかける言葉は、きわめて真っ当ながらも、人生の酸いも甘いも噛み分けた者だけがもつ含蓄にあふれている。
そんな亘江の歴史を知ったとき、以前はうるさいだけだった彼女の小言が、先人たちから脈々と受け継がれた「心の遺産」として、著者本人はもちろん読者のなかにも、ズシリとした重みとぬくもりをもって響いてくる。
物語終盤には、例の「ハイスコアガール事件」後のエピソードも登場。
その際、亘江が息子に投げ掛ける言葉がまたカッコよすぎて……。こんな母ちゃんになりたい! と感銘受けましたよ。
親の人生を知ることで、自分が今ここに存在している意味を思い、自身の呪われた体質(件の事件はもちろん、なぜか不良に絡まれるとかカラスに好かれるとか)も含め、すべてを受け入れたうえで、たくましく生きていこうと奮起する著者の姿にもジ~ン。
もちろん、母を美化するようなイイ話だけではなく、押切作品ならではのショボイ残念エピソードもあり、それがまたリアルで沁みる。
押切蓮介って、B級ホラーorゲームマンガの人でしょ? という人にこそ読んでほしい。
氏の秘めたる抒情性が開花した、せつなくもいとおしい人生賛歌だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
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