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『シルバーサーファー:パラブル』 スタン・リー(作) メビウス、ジョン・ビュッセマ(画) 市川裕文、石川裕人(訳) 【日刊マンガガイド】

2018/03/25


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『シルバーサーファー:パラブル』



『シルバーサーファー:パラブル』
スタン・リー(作) メビウス、ジョン・ビュッセマ(画) 市川裕文、石川裕人(訳)
ヴィレッジブックス ¥2,700+税
(2017年12月27日発売)


本作で作画を担当しているメビウスことジャン・ジローは、宮崎駿や大友克洋、谷口ジローが敬愛すると公言する世界的なバンド・デシネ作家。
メビウスとは、本名ジャン・ジロー(Jean Giraud)の別名義である。たまたまカタカナ表記が「ジロー」になるが、谷口ジローとは関係ない(『イカル』ではメビウス原作、谷口ジロー作画というコラボレーションが実現しており、名前の「類似」についての言及がある)。

『デューン』『エイリアン』『ブレードランナー』『トロン』『アビス』などの有名SF映画のデザインやコンセプトに関わってきた経歴からは意外に思う読者もおられるかもしれないが、じつは本作はメビウスが唯一MARVELで描いたアメコミ作品である。

アメリカン・コミックスとバンド・デシネはそれぞれ英語圏と仏語圏という2つの文化圏をそれぞれ代表するマンガ的表現ということで対置されることが多いのだが、もちろん大西洋を挟んで向かいあう両者のあいだに関係がないはずはない。
のちにメビウスを名乗ることになるジャンも、少年時代から『フラッシュ・ゴードン』などのアメコミに親しんできたのだった。
そんなメビウスがどのようにしてこの『シルバーサーファー』に起用されることになったのかは、本作の解説がくわしいのでそちらをぜひ読んでもらいたい。余談として触れられているクエンティン・タランティーノがらみのエピソードがニクい。

映画といえば、本作でメビウスとタッグを組んでいるスタン・リーがだれかは……いちいち書かないでもいいか。
マーベル社の最重要人物にして、ファンタスティック・フォーをはじめとする多くのヒーローを生み出したアメコミ界の生き神様といってもいいだろう。
マーベル映画にカメオ出演しまくる陽気な爺さんとしても有名。

で、本作の主役であるシルバーサーファーとは、ファンタスティック・フォーが対峙するヴィランのうちのひとり、ギャラクタスのヘラルド(使者)となった異星人である。

こう書いても何のことだかさっぱりわからない人もいるかもしれない。けっこうスケールの大きい話で、しかも時代が経っててややこしいのですぐにわからなくてかまわないと思う。
ともあれ、ギャラクタスというのは「星を喰らう」恐ろしい魔神であり、シルバーサーファーはそのギャラクタスに、狙われた母星を見逃してもらうかわりに、その使者になることを選んだという経緯がある。

マーベル社の作品の話をしてる時に恐縮ではあるが、DC社のスーパーマンはアメコミにおける高潔キャラの代名詞である。それに対し、シルバーサーファーはマーベル社における高潔キャラ代表のひとりなのである。
ギャラクタスが喰らう星に赴いてその災厄を伝えるという役目を、そんな高潔な人間が背負うのは、まさに悲劇としかいいようがないのだが、その悲劇性がまた彼を独特の位置に立たせてもいる。
本作では、ギャラクタスが一度地球を訪れファンタスティック・フォーの活躍によって「地球を喰らう」ことをあきらめ、宇宙へと去ったあとの話。
立ち去ったはずのギャラクタスはかつてない飢餓に急き立てられて再び地球に舞い戻ってくる。

魔神の再訪に人類は恐れおののき、とうとうギャラクタスを崇拝するようになる。
シルバーサーファーはそんな人類を救うべく、かつての主の眼前に飛び立つ……という筋書きである。

「メビウスのシルバーサーファーは偽物だ」という批判もあり、メビウス自身もその当惑を本作所収のメイキングで述懐しているのだが、ギャラクタスという黙示録級スケールの神的存在と、その神的災厄に毅然と立ち向かって対話を試みる人物、という神話的な構図はメビウスの作風にはけっこう適しているのではないだろうか。

アメコミ、いやスーパーヒーローコミックスは『マイティ・ソー』にかぎらず、現代の神話を描こうとしてきたはずである。
他方でメビウスたちのいわゆるバンド・デシネ勢もそれなりの方法で新しい神話を描いてきたのだから、本作のような叙事詩的なモチーフの作品にメビウスが起用されるのは当然ともいえるだろう。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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