人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、大今良時先生!
“それは更なる 刺激を求めて 歩き出した”――。
第1話が発表されるやいなや、今までにない主人公・世界観・物語に圧倒され、マンガファンの間で一気に注目を集めた『不滅のあなたへ』。
『このマンガがすごい!2018』ではオトコ編第3位にランクインした本作ですが、今回、ランクインと最新第6巻発売を記念して、大今良時先生にインタビューをさせていただきました!
『このマンガがすごい!2015』オトコ編で『聲の形』が第1位となり、はや3年……。前作からの変化や『不滅のあなたへ』制作秘話などをたっぷりうかがいました。
さらには先生の秘めたる“パラグライダー欲”と“モグラ愛”も発覚しちゃった!?
前作からの「課題」に取り組むための『不滅のあなたへ』
――(前作『聲の形』が『このマンガがすごい! 2015』オトコ編で第1位になった時は、ちょうど最終回を描かれている最中でした。その時のインタビューでは「次はファンタジーをやりたい」とおっしゃっていましたね。
大今 はい。
――宣言どおりに、今作『不滅のあなたへ』はファンタジーになりました。
大今 連載開始のタイミングは、自分で決めてないです。編集部から「この号から始めるよ」といわれていたので、あれ? もう?、と。
――連載までの準備期間が短かったんですか?
――『聲の形』の連載終了直前には、「(連載が)終わったらゲームしたいッッッ!」といってましたもんね(笑)。
――それではまず、本作ができあがっていくまでの経緯をうかがいたいのですが、本作のタイトルを『不滅のあなたへ』に決めた理由をお聞かせください。
大今 ニュアンスだけが決まっていて候補を何案か出したんですけど、私は結局どれもピンときてなくて。じつは最初に思いついたのが『不滅のあなたへ』だったんですけど、それを担当さんに出したら「それが一番いいじゃん!」といわれて。
――どういった時に思いついたんですか?
大今 これは、おばあちゃんが死ぬかもしれない、って時にポッと思いついた言葉なんですよ。
――作品の舞台をファンタジー世界に設定した理由は?
大今 ファンタジーだと、変なことができるじゃないですか。変な人を描いてもいいじゃないですか。
――たしかに人間の腹のなかで酒を保管しようと考える爺さん(=酒爺)なんかは、そうとう変な人ですね。
大今 「これとこれとこれをやるには、現代では無理だなぁ」と思うことがあって、それだとファンタジーのほうがいろいろできるな、と。
――なるほど。ファンタジーとはいっても、近未来ではなくて過去にしたのは?
大今 それは作品のなかで時間が進んでもいいように、古めに設定しました。
――以前、「テーマがないと描けない」ともおっしゃっていました。「何を考えたいのか、何を伝えたいのか、を決めなきゃ」と。
大今 それは、『マルドゥック・スクランブル(以下マルドゥック)』の時からの課題を消化しよう、という感じです。
――具体的にはどういったところでしょうか?
大今 (『マルドゥック』の主人公の)ルーン=バロットには自殺願望があって、なぜ自殺願望が生まれるのか、そこから遠ざけていくにはどうしたらいいのか、どうすれば救えるのか、ということです。それは『聲の形』でも考えました。今回の『不滅のあなたへ』でもその課題に向きあうということが出発点になっています。あとは「自分が死ぬための準備」ですね。
――えっ!?
大今 自分が望むかたちで死ねるかどうか、死ぬまでにやりたいことができるかどうか。
――そういうことですか。いきなり「死ぬための準備」というからビックリしました。
大今 やりたいことを全部やるには、時間がなさすぎて……。あー、やりたいことありすぎる。時間足りないー!
――それはマンガ創作の時間が足りないということですか?
大今 いや、それだけじゃなくて人生すべての時間が足らないです。
――なるほど。これまでの作品と比べて『不滅のあなたへ』は描くうえで違いはありますか?
大今 そうですねぇ……。『マルドゥック』の場合は原作があるので、それを紙の上で理詰めで積みあげていく作業のような感じでしたけど、『聲の形』は感情から入っていくマンガでした。
――感情。
大今
「石田ムカツク!」とかでもいいんですけど。
でも『不滅のあなたへ』は、感情から入っているわけではないんです。なんだろうなぁ……。たぶん、未来のことを描こうとしていると思うんですよねぇ。
――未来のこと、とは?
大今 『聲の形』は昔話というか、過去の話をしているようなところがありました。過去とどう向きあうか、ですね。でも『不滅のあなたへ』はこれからのことを描いている。だから、とても悩ましいです。
秘められた大今先生の欲望と葛藤
――これからのことを見つめて、その若さで「どう死ぬか」を考えて、でも時間がないと焦りがあって……。たいへんじゃないですか。
大今 いやぁ、でも毎週「死ぬかもしれん」と思ってて……。校了がぁ、イヤなんですよ!
――週刊連載をやっている作家さんは本当に超人です。頭が下がります。
大今 ストレスがマックス。私は昔、自殺は絶対にしないと決めたんですけど「これが仕上がったら死のう」とか「終わったら樹海だ」とか思っちゃう。
――物騒な。
大今 でもまだ死ねないんですよねぇ。やりたいこといっぱいあるのに、やりたいことをできないまま、目標が達成できないまま死んでいくんだろうな、って感覚がすごいつらいんです。
――まぁ、人間うっかり死にたくなりますからねぇ……。
大今 つらい……(笑)。これはどうやったらなくなるんだろう。ゲームやってる時だけは、すごく楽しいのに。
――それは、そういう(やりたいことをやりとげる)欲を捨てないと無理、ということなんじゃないですか? 仏教っぽい言い方ですけど。
大今 ブッダとか超ムカツク。
――ブッダ、ムカつきますか(笑)。
大今 「欲を捨てればいいじゃん」みたいなこといってさぁ。「無理じゃん!」って話ですよ!
――我々読者は毎週楽しみにしているので、頑張って描いてほしいです。
大今 うう……。連載しんどい。モーターパラグライダーに乗りたい……。
――なんですか、それは(笑)。
大今 風がなくても飛べるヤツですよ、知りません? YouTubeで見たんです。あと、豪華客船に乗りたい……。
――いいじゃないですか、豪華客船。船で移動しながら原稿描いたらどうですか?
大今 ああ、それはちょっと描きたい(笑)。
――そういう「やりたいことをやりとげたい」という欲と、それができずにいるということに、本作で向きあっていきたいと。
大今 硝子やバロットや石田が、ありふれた平和を手に入れたかったように、どうすればそれが救われるのか、ですね。
――では、さらに掘り下げていくために、本作の主人公・フシについてお聞きしていきます。