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【インタビュー】大今良時『不滅のあなたへ』「どうすれば死から遠ざかることができるか」―― 著者が自身に課した課題とは!?

2018/02/24


『不滅のあなたへ』原点とは

――本作の主人公フシは、はじめはただの球体です。外部から“刺激”を受けることで、それと同じ姿形を獲得していきます。とても独創的な設定ですが、どこから着想を得たのでしょうか?

印象的な第1話の冒頭。ここから“フシ”の物語が、すべての物語が始まる。

大今  一番大モトにあったのは、小学生の頃につくったキャラクターなんですよ。 彼を主人公にした作品も「マガジン」へ投稿したこともありました。

――そうなんですね! 最初からこういうキャラクターだったんですか?

大今  いろいろなかたちに変化するっていう設定は、連載を始めるにあたってつくったものなんですけど、どこからきているんだろう……。描き始めてからは、あとづけで『マルドゥック』のウフコックに似ているな、と思いました。それで「今度ウフコックに似ているキャラを描きます」と冲方さんにいったら、「それ、いろんなところでいってください」といわれたので、今、いいました(笑)。

――なるほど(笑)。

大今  そういえば、投稿作のときは主人公は女の子でした。

――それは、今回の連載で変えようと思って変えたんですか?

大今  審査員の先生に「主人公の男の子がかっこよかった」という感想をいただいたので「じゃあ男にしようか」と。

――それはショックですね。

大今  いやぁ、自分のことを「俺」といっていたし、乱暴でしたから。性別を感じさせないように中性的なキャラにしていたんです。私が中性的な女性が好きだっただけなんですけどね。どうなんだろう。女の子のほうがよかったですかね?

――でも、フシはマーチやパロナにも姿を変えるじゃないですか。

大今  そうなんですよねぇ。……あの、私の描くマンガって感情移入しづらいキャラが多いじゃないですか。

――そうですか?

大今  『マルドゥック』のルーン=バロットは娼婦だし、『聲の形』の石田はクズだし、『不滅のあなたへ』のフシは……人間でさえない。最初は感情が全然なかったりするので担当にも「変なキャラだね」って、いわれました。

フシは最初の頃、言葉をロクにしゃべれず、あまりの粗野ぶりにマーチにも驚かれていた。

――たしかにどのキャラも主人公としては変わっていますよね。

大今  連載で読む場合、(主人公や世界観の)前提を思いだしてもらうのが難しいから、こういう主人公は、あんまりやっちゃいけないことなんだと思います。普通の主人公だったら、予備知識がなくても読める。たとえば『ドメスティックな彼女』(流石景)とか、どこから読んでもおもしろいじゃないですか。

――読者にとって主人公は最初は“知らない人”なので、「この人はどういう人なんだろう?」と思いながら読み進めていきます。フシは設定が特殊ですけど、そんなに違和感はないと思いますよ。

大今  とにかく「いろんなことを描きたい」「いろんなキャラを出したい」という願望があるんです。いろいろな主人公を描きたい、こいつを主人公にしたいな、って願望を叶えるには「いくつ作品を描かなきゃいけないんだ!」と思って。だから主人公が姿かたちを変えたり、フシに関わるキャラクターをオムニバスっぽく変えたりしていけば、いろいろなキャラが描けるな、と。

――なるほど! エピソードごとにフシは移動し、いろいろな場所が舞台になりますね。

大今  いろいろな人種も描きたいですね。

――グーグーは裸で暮らしていますけど、第1巻の最初は雪に埋もれた村でした。

大今  第1話目の少年の住居は、船を真っぶたつにして家にしているんです。

――あ、本当だ。この天井、これは竜骨ですね。

不思議なドーム型の家……かと思いきや、じつは舟だった!

大今  だから、“あそこに村がある”のではなく、少年は“あそこに行き着いた人たち”のひとりである、ということをほのめかしています。

――フシが獲得した姿形は、敵(ノッカー)に奪われてしまいます。その設定も、連載開始時に思いついたんですか?

大今  連載用のネームを切る時に考え始めました。


フシがなれるものの「可能性」とは? さらに明かされる“モグラ愛”

――ちょっとお聞きしたいんですけど、敵にフシ(少年)の姿を奪われたとするじゃないですか。

大今  はい。

――それを取り戻した際には、いつの少年の姿を再獲得するのでしょうか?

大今  いつ、とは?

――グーグーといっしょに過ごしているあいだに、4年が経過して、そのあいだに一度も変身しなかったことで「相応に成長した」とあります。この「大きくなった姿」を取り戻すのか、それとも最初に少年のかたちを獲得したときの姿になってしまうのか。

大今  フシが自分で経験したものは奪われないです。奪われるのは、その“器の情報”です。器とは設計画のようなもので、それを奪われれば、それになれなくなってしまう。思い出にしても、「何かをやった」という感触は残るんですけど、誰とやったのか、色、形、匂い、音は思いだせないんですね。

――その「空洞の違和感」がシルエットで示されているんですね。ということは、全部奪われても残るものがある……?

敵に「マーチ」を奪われ、彼女を思いだせなくなるフシ。

大今  まあ、残るのはぽっかりと空いた穴ですが。『マルドゥック』にもそんなセリフがありました。

――ああ、そっかぁ。フシはこのまま年を取るんですか?

大今  年は取りますねぇ。死ななければ年は取ります。

――死ぬと戻る?

大今  そのへんがコントロールできるようになるかどうかは、今度の展開次第です。グーグーといた時点では、まだ自分の意思で“選択していない”。どうするかは、まだハッキリとは明言できません。あと、思考能力も器に依存するので……。

――人間の脳じゃないと、複雑な思考はできないわけですか。

大今  動物たちがどういう思考をしているかはいくら調べても結局のところわからないので想像で描くしかないですね。

――モグラに変身した時は、視力がモグラ並になってましたね。

ひょんなことから、モグラになれるようになったフシ。読者も“モグラ視点”になれるシーンだ。

大今  モグラは超かわいいんですよ。モグラのハンドブックを参考にしているんですけど、「せまい坑道のなかではすれ違えず、はげしいケンカをする」んですよ! いろいろなモグラが、こんなにも多くの種類が! ほら、こんなにも日本に!

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――……『聲の形』ではヌートリアが出てきましたけど、先生、こういうモフモフした感じがお好きなんですね?

大今  ああー、好きなのかもしれない(笑)。

――モグラに変身した時は、モノローグであまり漢字を使ってませんでした。

大今  モグラにどれだけの思考力があるかはわからないですけど、ほ乳類だし、なんとなく思考ができそうな雰囲気もありますから……。

今までオオカミ、クマになった時、フシの思考はわからなかった。フシが変化を続けていくことで、いろいろと発見も増えていく。

――それが「器なりの思考」ということですか。

大今  だから虫とか魚とかは、痛覚とか思考とか判明していないことが多すぎるので、うかつに変身させられないです。だって甲殻類には痛覚があるっていうじゃないですか。

――ちなみにスイスでは甲殻類を苦しませないように、生きたまま調理することを禁止する法律ができるそうですね。

大今  いろいろと考えさせられますね。

取材・構成:加山竜司

■次回予告

次回、さらに『不滅のあなたへ』に隠された文字の秘密や、明かされていない設定に迫ります!
インタビュー第2弾は3月3日(土)公開予定です! お楽しみに!

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