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『春風のエトランゼ』 第2巻 紀伊カンナ 【日刊マンガガイド】

2016/09/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『春風のエトランゼ』


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『春風のエトランゼ』 第2巻
紀伊カンナ 祥伝社 ¥650+税
(2016年7月25日発売)


ここに描かれているのは、同性の恋人のいる日常だ。
かぎりなく普通の景色でありながら、どこかが普通と違っていて――でも違っているからこそ、はっきりと実感できる何かがある。

痛みもつらさも、やさしさもいとおしさも、すべてが同居した物語。
それが今回ご紹介する『春風のエトランゼ』であり、『エトランゼシリーズ』の世界なのだ。
(シリーズ全体についての情報はこちら特設サイトでどうぞ)

同性しか好きになれない、若手小説家の橋本駿。
以前沖縄の離島に暮らしていた時、ひょんなことから声をかけた青年がいた。
今や駿の恋人となった彼の名は、知花実央(ちばな・みお)。

駿と実央は島を離れ、北海道にある駿の実家へ戻っている。
実家の離れで、蜜月ともいえる生活を始める2人。
第2巻は、橋本家の養子である7歳の“弟”・ふみに、ベッドシーンを目撃されたと判明したところから始まる。

男同士の見慣れぬ行為を目の当たりにしてパニックを起こすふみ。
これを皮切りに、穏やかに見えていた日常が、じつはいろいろと問題をはらんでいたことに駿は気づいてしまう。 駿はあれこれ考えてしまうものの、日々を健やかに暮らしている実央の影響もあり、徐々に実家での暮らしを受けいれ始め――。

この作品を読んでいると、本当の幸せとは、いつも変わらぬ予定調和のなかにあるのではないということを強く感じる。
日常にある小さな想定外や予想外の事柄が、そこへ連れていってくれるのだ。
たとえ“弟”にベッドシーンを目撃されようが、普段仕事に行かず家にいる父の理由がなんであろうが、どうでもいい――というと乱暴かもしれないが、どんなところからだって、本当に大切な人たちとなら解決できるし、幸せになれる。

そういった、毎日の生活を送りながら見出せる小さな幸福こそが、本物の幸福なのだろう。

BLマンガを紹介するセオリーとしては、年上受けだとか、黒髪攻めだとか、種々のスペックを書くべきなのかもしれない。
が、このマンガの魅力は、そういったものからはまったくかけ離れたところにある。
こまごまとした背景の描きこみが創り出す、いい意味で生活感あふれるなかでの、ときめきと恋愛。
ハイファンタジーや夢物語を読むより、読者は恋がしたくなること必須である。

駿は実央の明るさや健全さに救われたし、実央はつらい毎日から救ってくれた駿を信じ、ゲイではないのに彼の恋人になった。
ぎこちないけれど、お互いをだれよりも大切にする2人の姿はとても愛おしい。
そんな青年たちの物語は今後も続いていく。
続刊を心待ちにしたい。



<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」

単行本情報

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