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『春風のエトランゼ』第1巻 紀伊カンナ 【日刊マンガガイド】

2015/08/20


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『春風のエトランゼ』第1巻
祥伝社 ¥650+税
(2015年7月25日発売)


デビュー作にして話題沸騰、『海辺のエトランゼ』の続編が待ちに待った登場だ。

前作で気持ちを確かめあい、晴れて恋人同士となった天涯孤独の青年・実央(みお)と、若手小説家の駿。本作は沖縄の離島に暮らす2人が、駿の実家のある北海道に向かうシーンから幕を開ける。
駿はかつて幼なじみの桜子と婚約していたが、結婚式当日にゲイであることを告白して逃げ出して以来、実家とは絶縁状態にあった。しかし、桜子から父が病気だと知らされ、実央を連れて帰省することを決意したのである。

高速船、飛行機、フェリー、汽車を乗りついでの2人旅。恋人としてのゆったりした時間を楽しみながらも、いったいどんな顔をして帰ったらいいものか、実家が近づくほどに駿は憂鬱になるのだが。
動揺激しい駿に喝を入れるのは、“同性を好きになった自分”をしっかり受けいれた実央だ。駿の両親を前にして、緊張はすれども悪びれたりすることのない実央の純粋さに、駿も駿の家族たちもある種救われる。

いやはや、親に恋人を会わせるのはけっこうな事件で。しかも、それが男性同士のカップルとあってはハードルは上がりまくりだが、「悪いことをしているわけじゃない」という自覚と、実央の天衣無縫な無邪気さが空気をゆるませるのだ。
そんな実央に、駿の母はいち早く心を開き、駿の弟もたちまちなついてしまう。とはいえ、ことはやっぱりそう簡単ではなく……不穏な雲行きを感じさせつつドラマは次巻へ!!

それにしても登場人物それぞれの複雑な心情を映しだす表現力は、一級品だ。長旅の間の浮き世離れした時間軸も、2人がすごす狭いホテルの部屋も、実家特有の雑然とした温かさもリアリティをもって迫ってくる。
しかし、考えてみれば恋のせつなさと生々しさをいきなり「実家」という舞台にぶつけるとはかなり大胆で……この著者にはただならぬ剛腕さを感じてならないのだ。



<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」

単行本情報

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