365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
2月10日はトリノで第20回冬季オリンピックが開催された日。本日読むべきマンガは……。
『積極 -愛のうた-』
谷川史子 集英社 ¥400+税
2006年2月10日、イタリア・トリノにて第20回冬季オリンピック、通称「トリノオリンピック」が開幕した。
日本ではこのオリンピックの開催前から、停滞気味だった女子フィギュアスケート界に、ふたたび熱い視線が注がれていた。
トリプルアクセルを跳ぶ天才少女・浅田真央が年齢制限で出られない件を惜しむ声が高まった一方、4回転ジャンプを跳びアイドル的な存在となっていた安藤美姫は、絶不調のまま代表として引っ張り出されてしまった。
そのなかでベテランとして演技を磨いた荒川静香は、開会式でも使われた『トゥーランドット』の楽曲にのせ、柔軟性をいかして「イナバウアー」(本来は体をそらすことでなく、つま先を開いて滑る技を指すのだが)を披露し女子シングル悲願の金メダルを獲得する。
ライバルとしてともに戦ってきた村主章枝は独自の世界を見せ、4位入賞を果たした。
そんなトリノオリンピック出場のフィギュアスケート選手たちを、かくいう筆者が夢中になって応援していたことから、その名を登場人物に冠したというラブストーリー「積極」をご紹介しよう。谷川史子の短編集『積極 -愛のうた-』の表題作である。
「村主美幹(すぐり・みき)」は卒業をひかえた国文学科の大学4年生だ。定年間近で長老とも呼ばれる「鳥野(とりの)」教授の助手として、ファン以上の立場で接しているが、鳥野教授は亡き妻に操を立て、村主の好意をかわす。
村主には「荒川くん」という同棲中の年下の恋人がおり、客観的に見ても満点の男子なのだが……。
鳥野教授の穏やかさや、奥ゆかしい振るまい、お茶目ぶりには村主でなくともキュンとしそう。
いわゆる「枯れ専」ならばぜひおすすめの作品だが、「短歌」の魅力にも心を捕まれるはずだ。31文字のかぎられた言葉のなかから立ちのぼる豊潤な世界。
著者は短編作品に定評があるが、この「積極」だけでなく、同時収録の「スパイラル ホリディ」や「風の道」のように、よくできた短編マンガが心を惹きつけるのにも似ている。
さらにそれは、2分50秒または約4分半に凝縮されたストーリーや音楽への解釈を表現するフィギュアスケートにも、通じるものがあるかもしれない。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。