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『水色の部屋』上巻 ゴトウユキコ 【日刊マンガガイド】【リコメンド特集】

2014/12/04


mizuironoheya_s_jyo

『水色の部屋』上巻
ゴトウユキコ 太田出版 \800+税
(2014年12月4日発売)


「母さんがレイプされた」という衝撃のフレーズで幕を開ける問題作。

高校生の柄本正文は、母親のサホと2人暮らし。過去の“ある記憶”から美しい母親に対して屈折した愛情を抱いている。
地味で無口で同級生からは何を考えているかわからないと言われる正文だが、幼なじみの三好京子だけはそんな彼と親しく接し、京子がつきあうようになった河野も正文とおのずと親交を持つようになる――。

ゴトウユキコといえば、『R-中学生』『ウシハル』といった作品で、思春期の迷走するリビドーをリアルにユーモアたっぷりに描いてきた作家。
本作も「母と息子」という関係こそ特殊だが、そこで描かれるのは純情とエロスのせめぎあい。
ココロもカラダもグラグラと不安定で、ありあまる自意識や性欲に翻弄されては鬱屈を深めてゆく彼らの姿は、誰もがリアルに共感しうるものだ。荒削りで生温かい湿度を感じさせる絵柄も絶妙にハマっていて、アラサー読者もイッキに“あの頃”に引き戻される。

親子というよりも、歳のはなれた姉弟のようなサホと正文。サホへの歪な愛情を自覚しながらも、正文の日々は淡々と進んでいくかと思えたが――。

親子というよりも、歳のはなれた姉弟のようなサホと正文。サホへの歪な愛情を自覚しながらも、正文の日々は淡々と進んでいくかと思えたが――。

中盤までは、ごく淡々としたタッチで登場人物らの日常が綴られてゆくのだが、なんでもないシーンのちょっとした表情がまたうまい。なかでも、サホに好意を寄せる職場の上司に正文が向ける、見透かしたような表情。あるいはサホが河野に向ける、穏やかだが醒めた眼差しには、ハッとさせられる。

母へと向けられる好意を、冷たく見つめる正文。日常のちょっとした瞬間にのぞきみえる心の底がこわい!

母へと向けられる好意を、冷たく見つめる正文。日常のちょっとした瞬間にのぞきみえる心の底がこわい!

そんなセリフでは語られない無数のシグナルが、点と点が線を描くように登場人物らの新たな言動へと繋がり、上巻のラストでは急スピードでカーブをきるように“ある事件”へと至る――。

安達哲『さくらの唄』をも彷彿させる、その悪魔的展開には、読みながら「ひー」と悲鳴があがること必至!

今後、物語はどう転がってゆくのか?
つづきが気になってしょうがない同輩諸君は、ひとまず「ぽこぽこ」にて12月9日更新予定の最新話をチェック!

『水色の部屋』特設サイトにも注目!

『水色の部屋』発売を記念して特設サイトがオープン! 漫画家・ふみふみことの12000字対談、書店員や著名人からの50を超す推薦コメントが掲載されている。作品の世界をより深く味わうためにも、ぜひ訪れてみてほしい。




<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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