『深夜0時にこんばんは』
冬川智子 太田出版 802
7月12日は「ラジオ本放送の日」。1925(大正14)年の7月12日、東京放送局(現在のNHK)がラジオの本放送を開始した。
それにしても、1953(昭和28)年にテレビ放送が始まった後も、ネットが生活にとけこんだ今も……至ってシンプルなメディアでありながら独自の輝きを放ち続けるラジオの力には驚きを感じずにいられない。
本作は、深夜0時に始まるラジオ番組「ミネラル・ラジオ」のリスナーたちを描くオムニバスストーリーだ。
一度フラれた男性に今も想いを寄せる、イラストレーターのカホ。クラスでは目立たない存在だが、放送作家を夢見てラジオ投稿に精を出す中3のアキラ。淡々と家事をこなすだけの毎日に疑問を感じている専業主婦の由美。
それぞれに葛藤を抱える3人にとって、週に一度の「ミネラジ」はささやかな楽しみの時間だ。
「アホになりたい君のために 御手洗真のミネラルラジオ」の決まり文句でスタートする、いかにも民放らしいノリ。しかし、パーソナリティーの言葉がふと心に刺さる瞬間がある。それは、ひとりで聞く深夜番組ならではの力かもしれない。
ここで語られる3人の物語はいわゆるハッピーエンドではない。けれども、電波に乗って届くだれかのおしゃべりを聞きながら、みんな違うことを思い、それぞれの朝を迎える――そんな風景に、とても温かな気持ちにさせられるのだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」