『寄生獣』第10巻
岩明均 講談社 \463+税
(2014年10月9日発売)
この愚かな人間どもめ!
そういう作品がごまんとあふれていたなかで、『寄生獣』は埋もれそこねてしまった作品だ。
連載終了から20年近い歳月でも隠しきれない輝きのため、今年秋にアニメ化、さらに11月末には実写映画化(予告映像の捕食シーン、クオリティ高すぎ!)されて「遅い」という声はあっても「今さら」という声は聞こえてこない。
右手を食ったからミギー。この一見コミカルそうなやり取りに、背筋も凍る生態が言いつくされていた。
奴らは空からやってきたパラサイト(寄生生物)。人の脳に寄生して全身を支配する彼らは、ある命令に従って行動する。
「この種を食い殺せ」。
地球を汚す人類を食らえという本能に。
高校生の新一に取り付こうとした1体は、脳の乗っ取りに失敗し、右手に同化して寄生した。かくして奇妙な共同生活が始まり、呼び名がないと不便だと言われた寄生生物は「ミギー」と名乗る。
安直すぎるネーミングは、名前に興味がないから。人とは異質な思考をする、しゃべる昆虫のような存在だったのだ。
ぱふぁと頭が割れて人の頭をバツンと喰らうパラサイト。その画期的なグロさが、本作に注目を集めたのはまちがいない。
が、そのビジュアルショックは「この愚かな人間どもめ」とあわせて先例はあった。悪魔のようなものが人に取り憑き、おぞましい姿で人食いをする――連載が始まった当時は、本作を「最新の(原作版)デビルマン」ととらえるむきも多かったように思う。
事実、新一とミギーの立ち位置も、『デビルマン』の不動明とよく似ている。脳と同化できなかったミギーには人食いの本能はないが、「人とパラサイトが混ざったもの」である2人は人類にもパラサイトにとっても異質だ。
食うか食われるかの敵同士、そのはざまに立たされて揺らぐアイデンティティに新一は苦しめられる。かつて不動明がデーモンに「キサマは人類の味方か?」と問われて葛藤したように。
ミギーの「シンイチ……『悪魔』というものを本で調べたが…… いちばんそれに近い生物は やはり人間だと思うぞ」というセリフにも、『デビルマン』への意識はうかがえる。