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『倫敦影奇譚シャーロック・ホームズ』第1巻 安宅十也 【日刊マンガガイド】

2015/07/12


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『倫敦影奇譚シャーロック・ホームズ』第1巻
安宅十也 一迅社 \700+税
(2015年6月17日発売)


2000人の観客のカーテンコールのさなか、主演の若手女優が死んだ。
死因は、口の中の歯が全部抜かれたことによるショック死! 抜かれた歯は、現場から消失していた。この奇怪な事件に挑むのは、名探偵シャーロック・ホームズである。

シャーロック・ホームズは、有名なキャラクターであり、そのパロディ、パスティーシュは内外を問わず数限りなく製作されている。本コラムでも、先に秋乃茉莉『ワトソンの陰謀』(ぶんか社)を紹介している。そうした系譜に“影使い”という特殊な能力を持ったホームズが、今回加わったわけである。

ホームズは、繊細な雰囲気を漂わせた少年探偵。助手のワトソンは、チェック柄のアイパッチを右目につけた隻眼のイケメン青年だ。ワトソンの方が年長で、ホームズにエラそうな物言いをするのが、原作と異なるところか。
ついでに、本書の登場人物絡みで原作との差異を挙げておくと、ロンドン警視庁のレストレード警部は若い女性に、2人の下宿のハドソン夫人は16歳のしっかりものの美少女に変わっている(ちなみに、ワトソンはレストレードと理由ありな雰囲気だ)。

ホームズは、ある事件をきっかけに、自分の影を操ることができる“影使い”になった。傘の形を取らせた「影動器〈トリガーアイテム〉」を自分の影に刺すことで、影を自らの感覚の延長として、自由に動かすことができる(これを「操影」という)。
また、影は術者から切り離されることにより、特殊な能力を持つ影・シャドウとなる(これを「召影」という。ホームズは「黒棺ノ鍵天使〈コクカンノカギテンシ〉」と呼ばれるシャドウを持つ)。こうした能力を使って、ホームズは女優殺しの犯人が自分と同じ“影使い”だと知る。

奇怪な犯罪を企てる“影使い”たちのバックには「銀の髪のあの人」なる人物が控えている。
ラスボスともいえる「あの人」の名前は明かされていないが、原作でホームズのライバルであったモリアーティ教授の名前が冠せられるのは、ほぼ間違いないと思われる。

ところで、“影使い”の能力は便利な反面、術者の体力の消耗を招くという欠点もあるのだが、「黒棺ノ鍵天使」を操って疲労困憊となったホームズを、ワトソンがお姫様抱っこ(!)する場面がある。こうしたBL的雰囲気を持つシーンは、本書中のところどころに登場するのだが、それもまたこのシリーズの特徴である。

犯人が歯を抜いた動機、さらには抜いた歯をどう使ったか、という点は意外性に満ちている。
“影使い”のバトル物としてのおもしろさを持ちながらも、ホームズ譚の原点である推理の味わいにも充分な配慮をしている点は、ミステリ読みとしてうれしいところである。
安宅十也は、当サイトで『果てしなき渇き』(原作・深町秋生『渇き』)を連載しており、略歴などは紹介済みであるので、作者に興味を持たれた向きはそちらを参照されたい。

なお、本書はBookLive!で『シャーロックホームズは影ささやく』として配信された作品が、舞台化にあわせ改題されて再登場したものである。新作が「月刊Comic REX」に発表されているので、“影使い”ホームズと隻眼のワトソンという異色のコンビの活躍を引き続き楽しむことができる。
ちなみに、舞台公演は「倫敦影奇譚シャーロック・ホームズ ~銀髪の使者と七人の容疑者~」と題して、2015年6月17日~21日にかけて品川区六行会ホールにて行われた。

安宅十也先生が作画を担当された『果てしなき渇き。』の試し読みはコチラから!



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。

単行本情報

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