……なんだよ、「ちゅん顔」って。
ムエタイの選手みたいな名前しやがって、チュンガーオ・ウィラサクレックとかいそうだろ。だいたい、ちょっと前に一世を風靡した「アヒル口」だってイマイチよくわかってないんだから。あれだろ、『Dr.スランプ』のアラレちゃんが「ほよ?」って言うときの顔のことだろ?
『Dr.スランプ』第3巻
鳥山明 集英社 \390+税
(1982年1月発売)
もしくは小林まことのギャグ顔か。
『青春少年マガジン』
小林まこと 講談社 \933+税
(2008年12月17日発売)
……とにもかくにも女性誌を中心に「ちゅん顔」なるものが流行の兆しを見せているらしい。
女性誌は流行りすたりが激しいから、「雌ガール」なんて単語を聞いて「おいおいなんだよ『女囚さそり』みてぇだな!」なんて感心しているようじゃトレンドに乗り遅れてしまうわけで、やっぱりここらでキチンと流行をおさえておきたい。
なにせマンガは世相を映す鏡のようなものだから、世間のブームはすぐ誌面に押し寄せてくるものだ。いずれ「ちゅん顔」がマンガ界を席巻する日が来るかもしれない。
そんなわけで今回は、いっしょに「ちゅん顔」について勉強していきましょう。マジで。
さて「ちゅん顔」の特徴としては、
・口を少しだけ開ける
・スズメのように、ちゅんと唇を出す(アヒル口ほどではない)
・すまし顔
・目はキョトンとした感じ
といった要素が挙げられるらしい。
ああ、要はアレだろ。ダッチワイ……ん゛ん゛ーーーーーーーーーーッ! ゴホンッゴホンッ!
もとい、こういった特徴のおかげで「優しげ」とか「ピュアでキュート」といった印象が醸し出される、とのことである。
なるほど、アヒル口みたいに“ポーズとしてデキあがっているキメ顔”とは異なり、いずれかの表情へと変化していくその前段階のようでもあるから、「あれ、この子はいまどういう感情なんだろう?」と、周囲(見る者)の注意を喚起させるような効果があるのだろう。
それだけ戦略性に富んでいながら、アヒル口とは違い、“あざとさ”の印象が少ないので使い勝手がイイのかもしれない。
といったところをふまえて、ここからはマンガ界を代表する「ちゅん顔」を紹介していこう。これが最新の「ちゅん顔JAPAN」である。
エントリーNo.1は『マイルノビッチ』(佐藤ざくり)より、木下まいる。
『マイルノビッチ』第1巻
佐藤ざくり 集英社 \400+税
(2011年4月25日発売)
主人公・木下まいるは“毒キノコ”と陰口をたたかれる地味女だが、一念発起してメイクやファッションに開眼してカワいく変身! ほんの少しだけ突き出した唇が、まさしく「ちゅん」である。
そしてエントリーNo.2は『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(押見修造)の大島志乃。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』
押見修造 太田出版 \660+税
(2012年12月7日発売)
吃音症で自分の名前が発しにくい主人公・志乃の青春物語。ほんの少しだけ開いた口からは、どのような言葉が発せられるのか。「どういう子なんだろう?」と興味をそそられる。まさしく「感情の移ろいゆく手前」感がある。
さらにエントリーNo.3、『かくかくしかじか』(東村アキコ)から林 明子。
『かくかくしかじか』第2巻
東村アキコ 集英社 \743+税
(2013年5月24日発売)
作者・東村アキコの自伝的マンガ。少しポーズをつけて「すまし顔」のエッセンスはじゅうぶん。なお、東村先生のインタビュー記事はこちら。
続いてエントリーNo.4は『レトルトパウチ!』(横槍メンゴ)の宇留鷲恵麻。
『レトルトパウチ!』第2巻
横槍メンゴ 集英社 \514+税
(2015年6月25日発売)
“かなり特殊な”国立のエリート高校を舞台にした、いわゆる「ハーレムもの」。2巻カバーの宇留鷲恵麻(うるわし・えま)は財閥の令嬢で学業優秀なサブ・ヒロインだ。目のキョトンとした感じが、よく表現されている。
そろそろ「ちゅん顔」の傾向がつかめてきたのではないだろうか。
それでは最後にエントリーNo.5はこちら。
『とりぱん』第4巻
とりのなん子 講談社 \590+税
(2007年10月23日発売)
「優しげ」で、これ以上ないくらいに「ピュアでキュート」だ。あと、ちょっとワイルド。
というわけでこの夏は「ちゅん顔」を極めて、意中のカレをゲットだぞ☆(・ω<)
チュチュンがチュン。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama