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8月2日はパンツの日 『地獄先生ぬ~べ~』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/08/02


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『地獄先生ぬ~べ~』集英社文庫第18巻
真倉翔(作) 岡野剛(画)集英社 \390+税


きょう8月2日は、8(ハ)と2(ツー)にかけた「パンツの日」。
下着メーカーのイトガイが定めた記念日で、近年、ワコールがパンツを花束状にしたギフト「パンツフラワー」の贈呈を提唱して注目を集めつつある。

パンツとマンガをからめて語るさい、エロ方面を避けて通ることができない。
ただ、その際に注意点がある。「パンツはエロい」とは、歴史的には後付けの感覚だということだ。

1930~50年代、日本人は和装から離れて洋服を着るようになった。
着物の下に何も履かなかった女性たちも洋装ではいわゆるズロースをつけだしたが、その過渡期の資料をみると、当時の男性視点ではあくまで陰部や脚線がエロいのであって、パンツが見える=中が見えない・残念、という価値観が決して珍しくなかった。

パンツ=エロいが優勢になったのは大体1950年代中盤からといわれている。
マリリン・モンローのスカートがまくれあがる映画『七年目の浮気』(1955年)の公開前後のタイミングだ。ミニスカの流行、性的サービス業の発展など複数の要因から、パンツは欲望の対象として徐々に社会化されていった。

そしてマンガも、このパンツ=エロい観に染まり変化した。
例えば1940年代に『サザエさん』作中でワカメちゃんのパンツを出そうがお色気にならなかったが、パンツ=エロが強まって以降は様々な作品がその価値観を絵にあらわしていった。クロッチを示す線が入り、フリルがつき、リボンが、布のシワが、食いこみが……とパンチラ進化論を説いたのはマンガ論マンガの名著『サルでも描けるまんが教室』(1989年)だ。

そういったマンガがパンツにこめる欲望が極限までいくとどうなるか示した一編がある。
小学校で教え子を守って悪霊妖怪と戦う霊能力教師の活躍を描いた少年マンガ『地獄ぬ~べ~』第28巻、鬼の少女・眠鬼(みんき)のお話だ。

眠鬼は、主人公・ぬ~べ~の左手に封印されている鬼の妹。
ビキニアーマーめいた装束を身にまとい、下半身はパンツ一丁。妖力の源がパンツだったり何かとパンツに縁深いキャラなのだが、兄の仇としてぬ~べ~を襲った矢先に妨害してきたクラスの男子生徒を全員パンツに変化させてしまうくだりがハイライト。
パンツにされた男子たちはしだいに自我が薄れていき、このままではただのパンツになってしまう……。眠鬼の「助けたければ はくことね」というセリフを受け、クラスの女子たちは羞恥に身をよじりつつ男子たちの意識を宿したパンツを生ではく羽目に。

女子にはかれたパンツ化男子たちが興奮のあまりヨダレと鼻血でぐしょぐしょになる図のハレンチっぷりはマンガのエロコメ史に残る名場面である。

もともとはパンツを邪魔物としていた視線が、やがてパンツ自体をまじまじながめるまなざしに変化してパンツ=エロいという感性を形づくった。さらにそれを突き抜けた先にあるものを、このエピソードは描いている。
すなわち、パンツをエロいとみなす者がパンツそのものに同化する境地だ。
欲望の対象を「感じる」状態としてこれ以上なかろう。

パンツがお好きなそこのあなた。
あまりパンチラを喜びすぎていると、あなた自身がパンツになってしまうかもしれませんよ……。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

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