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『鉄風』第8巻 太田モアレ 【日刊マンガガイド】

2015/11/05


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『鉄風』


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『鉄風』第8巻
太田モアレ 講談社
(2015年10月7日発売)


何もかも「楽しい」と感じて、むちゃくちゃな訓練を積み、狂った強さを得た太眉ファイター・馬渡ゆず子。
そんな充実している人間が嫌いで、すべてぶっ潰したいと考える、根っからの天才肌と長身を誇るひねくれ者・石堂夏央。

総合格闘で出会った2人が、最終巻、ついにリングで向かいあった。
石堂夏央は、最高の笑顔で馬渡ゆず子を見つめる。
「大っ嫌いッ!!」

ねじくれたファイターだらけのこの作品。特にゆず子と夏央は顕著だ。
8巻には、夏央が突然キレて叫び始めるシーンがある。
無神経で鈍感で、ときに残酷なことにまったく気づかず、楽しい楽しいとはしゃいでいるゆず子への怒りだ。

夏央は天才。ゆえに、謂れなき文句を言われ、嫌われ、苦しんできた。努力をしたくてもできない。何をやっても満ちたりない。
そんな彼女が、最終巻にしてはじめて「悔しい」「頑張ったのに」と、泣いた。

一方、いつも笑顔で充実し、ネジがふっ飛んでいるゆず子。
あいかわらず笑顔だ。しかし夏央と戦ったことで生まれてはじめて「みんなが自分と同じわけではない」ということに気づかされ、呆然とする。

この作品に出てくる強い少女たちは、世間一般の人間の感情が、どこか欠落している。あるいは勝つためにそれをおし殺している。
だから読みすすめていると、格闘技の世界でトップに上りつめるには人間性が欠落してなきゃいかんのか、と感じさせられる。

しかし最終巻、夏央に変化が訪れる。
ラスト、夏央は「可哀想なあの子をボコボコにして助けてあげるんだ!!」と言う。言葉こそ序盤の、いらだっていた夏央の「充実している人間を許さない」となんら変わりはない。
しかし根底にある精神は、自分もその目標(充実している人間をぶちのめす)のために「努力」しよう、に変化した。

彼女の心の重しになっていた、引きこもりの兄の問題もようやく解決。
ゆず子は相変わらず感情がズレているし、夏央も性格は歪んだまんま。

しかし、歪んだら歪んだなりの、成長の仕方がある。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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