日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『鉄風』
『鉄風』第7巻
太田モアレ 講談社 ¥600+税
(2015年9月7日発売)
ある種の少年マンガの主人公に、「気持ち悪さ」を感じたことはないだろうか。
迷うことを知らず、一直線に目標へと突き進む、その姿。高いモチベーションに対して、頑強な肉体もどこまでもつき従い、鍛えれば鍛えるほどに、強さは絶対的なものとなっていく。
本作に登場する主人公のライバル・馬渡ゆず子は、そうした「気持ち悪さ」を全身で体現しているキャラクターだ。
一を聞いて十を知るような才能もなく、フィジカルにも恵まれていない。しかし、愚直に練習を繰り返し、技を身に付け、肉体を鍛えあげることを、まったく厭わない。
むしろ、圧倒的な喜びに包まれながら己を磨き上げる。
連載開始以来、ずっとオブラートに包まれていたゆず子の「気持ち悪さ」は、前巻の終盤から明確に読者に示され始めた。
そして今巻、強敵パク・ドゥナとの対決で、彼女の異常さが、攻撃性となって炸裂する。
はっきりいって、怖い。
描かれていることは、「努力の果てに愚直なキャラが勝利を手にする」という、スポ根マンガの王道展開なのに、爽快感はない。ここにあるのは、得体の知れないものへの恐怖だ。
なんて鮮烈な、少年マンガイデオロギーへのアンチテーゼ!
さて、そして物語はクライマックスへ。
ゆず子という、格闘技によって生み出された善良すぎる怪物と、その対極にある存在と言っていい、恵まれた身体と抜群の格闘センスだけを頼りに勝ち上がり、心にも個性的な歪みをかかえる、主人公・石堂夏央の、互いが願い続けた直接対決がついに実現する……。
戦いの結末は最終巻である次巻に持ち越し。2カ月連続刊行で、このレビューが掲載された直後には、すぐさまそちらも発売になる。
ぜひまとめ読みして、背筋をぞくぞくさせるような、歪んだ少女たちのぶつかり合いに胸躍らせてほしい!
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei