初の商業単行本にして、一部書店のみの取り扱い作品『足摺り水族館』が、なんと本誌『このマンガがすごい! 2014』の「オトコ編」に堂々ランクインした、異能の新人panpanya先生へのインタビューも、ついに後編。
今回は、『足摺り水族館』本編のこだわりや、日頃どのように作品を執筆をしているのか、さらに、今後の活動についてなどを、ディープにお聞きしてみました!
(前編は→コチラ)
背景は描きたくて描いているわけじゃない!?
――panpanya先生の作品のひとつの特徴として、人物は割とラフなのに、背景はすごく緻密に描かれている点が挙げられます。
panpanya とくに緻密に描くことに固執してるわけではないので、そうなのか、という感じで……。細かく描かないと“もたない”と思うところは、細かく描いています。逆に緻密に描く必要がないと思う箇所、描かずとも“もつ”場面に関しては、必要以上に描かないようにしています。たとえば、こういう場面(『足摺り水族館』P.101)[注1]は、これで“もっている”と思います。行きがかり上、細かく描かないといけないコマに関して細かく描いているだけ、という意識です。
――その「もつ/もたない」について、もう少し具体的にお聞かせください。
panpanya たとえば……この、主人公がよそ見をして「コメントしづらい味…」といっているシーン(『足摺り水族館』P.120)[注2]ですね。なんというか、てきとうに口に入れてみたら、コメントしづらいな……という、味に主人公の気持ちが入っていない場面なので、心がよそに向いてしまっています。その「よその部分」が描かれたコマになります。
――よそ見した視線の先にあるものが描かれていないと、このコマは“もたない”んですね。
panpanya このコマ(『足摺り水族館』P.41)[注3]もそう。「おっ 絶版車」といっているんですが、主人公と絶版車しか描かれていなかったら、絶版車に興味があって注目した人、ということになってしまう気がするので。
――主人公は、その車に特別興味があるわけではない、と。
panpanya 適当によそ見をしているシーンであれば、よそ見の対象となる周囲もしっかり描かれていなければ「よそ見をしていること」が描けない。たとえば、校長先生がつまらない話をしていたら、上の空で壁のシミをひたすら数えたりしませんか? もしその状況を場面描写だけで描くとしたら、校長先生の話と同時に壁のディテールを描かないと、話を集中して聞いている、という感が出てしまうというか。背景を克明に描く、イコール、注意が散漫という表現になる、というわけでもないとは思いますが、どこかにそういう意識があります。
――なるほど。
panpanya だから、逆に背景が邪魔になってしまうようなところは、描かないんです。この「むむー どっち行った」(『足摺り水族館』P.236)[注4]というコマも、背景は描きませんでした。こういうとき、探している対象以外が密に描かれていると、たいして真剣に探していない感じになる気がしたので。
――panpanya先生は、背景を描きたくてビッシリと描いているのかと思ってました。そういうわけではないんですね。
panpanya そういうシーンもないわけではないです。ただ、基本的にはストーリーを描く上で、ないと困るから描いています。また、余計な物を描きすぎて、関係ないところに意識がそれるのも嫌なので、必要十分、という意識があります。背景をびっしり描きたいと思ったら「びっしり背景が描かれる必要のある話」を考えます。
――では、キャラクターがラフな描き方なのは、どういった理由があるのでしょうか?
panpanya 登場人物は生きて動いているので、観察してディテールを詰めて描くような方法だと、固くなってしまうというか、瞬間を切り取ったマネキンのようになってしまいます。どうもキャラクターを生き生き描くのが苦手で。丁寧に清書したときに生命感が損なわれる気がするんですね。動いているものは、呼吸をして動いていますから、固定された背景などにくらべ、ゆらゆらしています。生きたキャラクターを描く際の必要な情報として、「怒ってる」とか「笑ってる」などが最低限認知できる程度の、いい加減な描き方が適切だと思いました。
――たしかにシンプルですけど、表情は豊かですね。
panpanya ありがとうございます。
――panpanya先生ご自身も、描いた作品の登場人物みたいですよね。
panpanya それ、よくいわれますね。
1月と7月 マンガのなかの登場人物がしゃべっているセリフは、全部panpanyaさんの普段の口調ですよね(笑)。
――向き合ってお話ししていると、作品を読んでいるときと同じような印象を受けます。
panpanya たしかに、固有のキャラクターの人格みたいなものはほぼ考えないですね。(自分の言葉で台詞を)言わせてるだけで。
――キャラクターでいえば、レオナルド[注5]とか好きですけどね。あの垂れ耳の。
panpanya ああ、レオナルド。でもレオナルドは「君の魚」(『足摺り水族館』収録)では垂れ耳の犬ですけど、ほかの作品では柴犬になってることもあったりして。本当は名前すらつけるつもりなかったんですが、名前がないとうまくいかない場面があったので、仕方なく付けました。名前もなんでもよかったんですが、なんでレオナルドにしたんだったかは忘れました。
- [注1]『足摺り水族館』P.101 主人公の背景には、なにも描かれていない。panpanya先生がいう“もつ”シーンの例。
- [注2]『足摺り水族館』P.120 試食品を口に入れた主人公の感想。主人公とは異なるタッチで描かれた、周囲の人々が印象的。
- [注3]『足摺り水族館』P.041 主人公が歩きながらよそ見をしていると、絶版車(コニーグッピー)を見つける場面。商店街の店舗がギッシリと描かれている。
- [注4]『足摺り水族館』P. 236 背景が細かく描かれていると「注意が散漫な感じになる」(panpanya)というシーン。
- [注5]レオナルド panpanya先生の作品に出てくる、犬のような顔をしたキャラクター。