自分のマンガを読むのが大好きなんです
――独特な画風を生み出す、画材道具にも興味があります。見せていただけますか?
panpanya どうぞ。最低限これだけあれば、マンガは描けます。
――おお、このペン軸はすごいですね!
panpanya これは自分で作りました。
――自作ですか!?
panpanya 三角の軸が好きなんですけど、三角形の軸って、ちょうどいい太さのものが売っておらず、妙に軽かったり、細かったりして。しょうがないから自分で木を削って作りました。
――回転して開けると、芯が変えられる作りなんですね。
panpanya 木の筒にボールペンの中身を仕込んでるだけですからね。あと最近使い始めたのは、呉竹の美文字筆ペン。それまではぺんてるの筆文字サインペンを使っていましたが、黒が薄いのがいまいち気に入らなくて呉竹のにしました。いい具合です。
――人物は、どの道具で描きますか?
panpanya 鉛筆っぽい線は、だいたい太いシャーペン。芯は1.3ミリのもの。遠くの人物とか、細い線を描くときは0.7ミリ。スケッチ用のもっと太いやつを使うときもあるし、鉛筆のときもあります。
――一般的なペン入れ用の筆記具としては、Gペンや丸ペンが知られていますが。
panpanya マンガはGペンで描くもんだと思い込んでいたので、最初は使ってみましたが、使いづらいし、なんだか線がにじむので、すぐやめました。今にして思えば、紙がコピー用紙だったせいなんですが……。結局、コピー用紙にボールペンが一番馴染めるので、いまだにそれで通してます。
1月と7月 いまはデジタルで描く人も多いですよね。
panpanya 最終的にはスキャンして、はみ出したところを消したり、写真を貼りこんだりしてるので、デジタルは見た目よりかなり併用しています。それも含めて、そんなに珍しい道具は使ってないですよ。
――いや、道具自体は珍しくなくても、これらを使ってマンガを描いている方は珍しいと思いますよ。コピー用紙に描いているとおっしゃっていましたが、今、白泉社の「楽園 Le Paradis」(以下「楽園」)でも作品が掲載されています。その原稿と同人誌の原稿との制作の違いなどはありますか?
panpanya 一緒ですよ。ネームもわりと年がら年中やっていて、「ああ、5ページのが描けた」と思ったら、それを(「楽園」編集部に)送る。その内容にOKが出たら、同人誌と同じ手法で原稿にします。
――お話を思いつくときは、どのような感じなんですか?
panpanya 思いつくときは、最初から最後まで一気にいけます。最後の1ページは、どうすれば綺麗に終われるか、そこはよく考えますけど。
――ネームまでの行程は?
panpanya 最初に生活ノート[注10]があって、その段階では気になった事柄をメモしてる程度なのですが、それが核になってアイディアが出てくるときがあります。そしたら、それを書き出す。アイディアは、普通に生活したり、しゃべったりしている間も頭のなかで発生して、消えていっているようです。紙に向かって「さあマンガを描くぞ」という体勢をとると、その浮かんでは消えているものを拾えるような気分になれます。それを片っ端から記録する作業[注11]です。それがうまく途切れなく続き、マンガの始まりと終わりが出たな、となったら、それを整頓するかんじでネームにして、原稿に取りかかります。
――かなりしっかりした執筆工程を組んでいるんですね。
panpanya そうですか? 言葉にするとなんだか長ったらしいですが、ハハハとあれこれ妄想して、「来たな」ってなったらパパッとネームができあがる、みたいな具合ですので、しっかりしていると言われると「そうなのか?」という感じですが。でも、途中で話が途切れたアイディアは、あまり試行錯誤せずに捨ててしまいますね、よい奴は途切れず、すっと出てきます。
――今後もpanpanya先生の作品を読みたいときは、コミティアでの同人誌と「楽園」をチェックすればいいわけですね。
panpanya そうですね。最近は「楽園」でコンスタントに作品を発表させてもらっているので、同人誌は「同人誌でしかできないこと」に絞るようになると思います。とはいえ、商業と同人で、マンガ(の内容)的には明確な区別なく描いているところがあるので、これまで以上に自作本ならではの本の形態を考えたいです。
――ちなみに、「楽園」は本誌とweb増刊があります。その区分は考えて執筆されていますか?
panpanya 本誌はページの規定があるので、うまく規定に収まるものが出たら本誌に、という感じです。ありがたいことに「楽園」の編集長が、制約を課すことで作品がつまらないものになる可能性があることを心配されていて、基本的には本誌とweb増刊の違いは考えずに、のびのび描いています。
――「楽園」編集部さん、すごく度量が広いんですね。
panpanya そうですね、一期一会という感じの出会いで描かせていただくことになったのですが、本当にいい雑誌です。感謝しています。
――楽しんで作っていることが伝わります。
panpanya 自分のマンガを読むのが大好きなんですよ。
――へえ。
panpanya これ、いうとみなさん「へえ」っていいますね。
――「過去に自分が描いたものは見たくない」という方も多いので。
panpanya そうなのかー。自分がおもしろいかどうかがモチベーションですし、描くかどうかの判断基準ですから。だから自分で読んだら、やっぱりおもしろいものです。自分で何度も読んで楽しんでいます。
――そういった作品が多くの人から評価されるって、すごいことですよね。
panpanya 他人のために描いて「おもしろくない」といわれたら、多分がっかりしますよ。基本的には自分がおもしろいと思っているものを勧めるような気持ちなので、他人になにをいわれても「ああ、君にとってはおもしろくなかったのか、そうかそうか」という感じで、気楽でいられるので。好きといってもらえらたら、それはとてもうれしいことですし。なにはともあれ、ありがたいことです。
1月と7月 この本[注12]も最高ですね。はじめて読んだ……。
panpanya あれ? お見せしたことありませんでしたか? これは失礼しました。これもお気に入りの作です。
――このインタビューでpanpanya先生に興味を持っていただいた方は、ぜひ『足摺り水族館』、それに「楽園」の本誌とweb増刊、そしてコミティアなどで、作品そのものを目にしていただければと思います。本日はありがとうございました。今後のご活躍を期待しています。
- [注10]生活ノート アイディアノートの要素を持った、panpanya先生が愛用しているノート。詳しくはインタビュー前編3を参照。
- [注11]記録する作業 画像が、panpanya先生が「記録する作業」と呼んでいる、ネームよりひとつ前の段階のもの。
- [注12]この本 取材時にテーブルの上に出ていた、画像右、青い表紙の同人誌『山椒魚事件』のこと。「日本の動物珍事シリーズ」と銘打ってある。シリーズ続刊に『ニューフィッシュ』があるが「適当にシリーズ名をつけただけだったけど、次の話も動物だったので続刊ということにした」(panpanya)とのこと。
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取材・構成:加山竜司・編集部 撮影:編集部