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『中村明日美子コレクションVI Jの総て』第3巻 中村明日美子 【日刊マンガガイド】

2015/11/07


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『中村明日美子コレクション Jの総て』


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『中村明日美子コレクションVI Jの総て』第3巻
中村明日美子 太田出版
(2015年10月5日発売)


中村明日美子デビュー15周年を祝して出版される初期8作品の新装版の第6弾。

幼い頃からマリリン・モンローに憧れ、マリリンになりたいと願った少年・J。
なみの女性よりずっと美しく、ずっと女性らしいJの人生を翻弄するのは、彼が抱える性同一障害だけではない……。本作は、Jというひとりの「女性」の、愛にまつわる人生譚である。
第1巻ではJの波瀾万丈の始まりとなる事件とギムナジウム時代が、第2巻ではNYでのクラブ歌手時代が描かれてきた。そしてこの第3巻で、彼(彼女)の物語は完結を迎える。

NYで失踪して1年半後、Jは刑務所のなかにいた。そしてそこで、司法書生となった初恋の人・ポールとの再会を果たす。
突然のことにとまどうJとポール。とりわけ、これまでいろいろ失ってきたJは、もう愛とか幸せとかいうものをなかば諦めてしまっていたのだ。
物語を通じてJにのしかかるのは、自分をレイプした父親を母親が射殺したことのトラウマだ。自分の存在や行為が愛する人を幸せにしないという思いが、時とともに薄れるどころか、彼(彼女)の心を壊していく。
ましてマリリンの自殺を知ると、Jはますます自暴自棄に……。

そんな陰惨な悲劇の一方で、この物語はJを愛する人々の物語でもある。
Jを愛した女性・リタ、リタが生んだ娘・ジーン、養子のJと甥のポール愛情を注ぐカレンズバーグ、学生時代からJを理解しさりげなく守るモーガン、そして、ゲイであることを認め、Jとともに生きることを決意するポール……。
周囲の人々の、ただひたすらにJを思う気持ちが、この作品に救いを与え、温かい結末へと導く。

「君が好きだ。それだけじゃだめなのか」
クールな優等生・ポールの激情ほとばしるクライマックスでは、涙がこみあげること必至。やがて彼らに女性として生きていくことを理解され、穏やかな表情を見せるラストシーンのJを見れば、読者もJ同様の幸福感を感じられることだろう。

読み終えたとき、まるで1本の映画を見たような気分になる本作。
中村明日美子が描く美しく艶やか、官能的かつ退廃的な絵は、ストーリーなくしてさえ我々お耽美系女子を興奮させるのだが、とりわけこの作品は、恋愛、同性愛、家族愛、隣人愛など様々な愛の形を描ききる文学的傑作として心に残る。

なお、本巻巻末には、Jとポールのその後の描きおろしショートストーリーも収録。
これがまたポールの男をアゲるいい話で、すでに本作を知っている人にも、この新装版はあらためて見届けてほしいと思うしだい……。



<文・藤咲茂(東京03製作)>
美酒佳肴、マンガ、ガンダム、日本国と陸海空自衛隊をこよなく愛し、なんとなくそれらをメシのタネにふらふらと生きる編集ライター。

単行本情報

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