365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

12月1日は藤子・F・不二雄の誕生日。本日読むべきマンガは……。

『藤子・F・不二雄大全集 中年スーパーマン左江内氏』
（『未来の想い出』所収）
藤子・F・不二雄 小学館 ￥1,500+税

『未来の想い出』は1991年に「ビッグコミック」誌上で連載された藤子・F・不二雄のSF長編。

時間をテーマにした藤子・F・不二雄の代表作といえば、間違いなく『ドラえもん』だ。
『未来の想い出』は、死んで自分の半生をやり直す藤子・F・不二雄版『リプレイ』ともいえる作品だ。

主人公は中年漫画家・納戸理人。40歳を越え、作家としての最盛期を過ぎ、才能の枯渇をひしひしと感じながら過去の栄光を振りかえる日々を送っていた。
出版社が主催したゴルフコンペでまさかのホールイン・ワンを出したショックで心臓マヒを起こして卒倒。
三途の川を渡りかけたところで、血気にはやる若かりし頃の自分の声が聞こえる。その懐かしい声に導かれたようにフラフラと声のする方へ歩を進め、目覚めてみれば20年前のオンボロアパートの四畳半にいた。
納戸は、再び自分の人生を再演することになる。

『未来の想い出』は、自分を題材にすることが少ない藤子・F・不二雄が、珍しく自分を投影したかのような主人公を描いた自伝風作品でもある。
藤子・F・不二雄の自伝的要素を持った作品といえば、『オバケのQ太郎』の誕生秘話を描いた『スタジオボロ物語』、『ドラえもん』の誕生秘話を描いた『ドラえもん誕生』、手塚治虫作品の思い出を描いた1ページ『昭和23年春のある虫ファン』程度。
文章ものを含めれば、母校の機関紙に書いた高校時代の思い出をつづったエッセイなどもあるが、マンガ作品は非常に珍しいのだ。

『未来の想い出』の主人公・納戸理人は藤子・F・不二雄の自画像そっくりなのだが、藤子・F・不二雄本人より15歳ほど年下の世代。
納戸がいる世界の大御所作家としては、藤木・F・不二雄や石林章太郎、さいとう・たかしなどが存在し、出版パーティーなどでそれらしき姿も確認できる。

藤子・F・不二雄と納戸理人はあくまで別人物という扱いなのだが、共通点も多い。
納戸のマンガ仲間が集まるオンボロアパート・西日荘は、外観や中身までトキワ荘そっくり。
そこに入りびたる野良猫のノミをそーっと取るエピソードも、『ドラえもん誕生』で披露していたトキワ荘時代の思い出話に重なる。
納戸理人は藤子・F・不二雄の青春時代の思い出の一部を受け継いだキャラクターでもある。

納戸は運命的とも思える女性・水谷晶子と出会い、初連載作『ざしきボーイ』は大ヒットを飛ばす。
順風満帆かに思えた納戸の人生だが、しばらく連絡が途絶えていた晶子が郷里で非業の死を遂げていたことが判明する。
失意のなか、マンガ仲間の女性と結婚し、求められるまま原稿を量産し続ける納戸。
しかしそれは惰性でペンを動かすノッペラボーな日々を積み重ねるだけだった。

再び自分の半生を再演した納戸は、交通事故の衝撃でループする人生を送り続けていたことに気づく。得意から失意へ、天国から地獄へ、何度も繰り返してきた運命の輪から抜け出し、今度こそ水谷晶子を取り戻すのだ。
納戸理人は非常な運命の神にまっこうから歯向かっていく決心を固める。

なお、『未来の想い出』は、藤子・F・不二雄大全集『中年スーパーマン左江内氏』に収録されている。
『中年スーパーマン左江内氏』は、『勇者ヨシヒコ』シリーズなどでも知られる福田雄一が脚本・演出を務め、2017年1月からドラマが放送予定。
藤子・F・不二雄大全集版なら『中年スーパーマン左江内氏』と『未来の想い出』という、青年誌に連載された唯“二”のF作品が一挙に網羅できる(『中年スーパーマン左江内氏』は「漫画アクション」連載)。

藤子・F・不二雄先生の誕生日を祝して『未来の想い出』を読もう！

＜文・秋山哲茂＞
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』（小学館）、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進！』（徳間書店）など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん　新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士（見習い）。