『さくらの園』第1巻
ふみふみこ 秋田書店 \1,200+税
(2014年9月8日発売)
『女の穴』、『ぼくらのへんたい』といった作品で、異性愛のみならず、同性愛や性同一性障害といったセクシャルマイノリティを通して、性に対する違和感やコンプレックス、心と身体の揺らぎを描いてきた、ふみふみこの「Championタップ!」連載の第1巻。
異形の生物たちが生息する、いつかの未来のどこかの地下世界。全寮制の学校で暮らす女子中学生たちは、教師から「人類が地上に住めなくなり、本来は絶滅するところを運よく生きながらえさせてもらっているから、ケンカは御法度」と教育され、いっさいの性的なものから隔離されて育っている。
中学を卒業したら「ママ」になり、30歳すぎで寿命を迎えることを、ごく自然に受けいれ、冗談で笑いあったり、ケンカしたり、一見普通の女子中学生らしい青春を謳歌する彼女たち。しかし、謎の転校生・リズの登場により、彼女たちに少しずつ変化が起きて――。
ある宿命を背負った子供たちが、自らを取り巻く世界の秘密に立ち向かう――てなシチュエーションは、カズオ・イシグロ『私を離さないで』を思い出さずにいられないが、その謎を解くキーとなるのが「性」であり、図書館で見つけた古い文献(官能小説!)に登場する「ちんぽ」というのが、さすがふみふみこ!
同性へのほのかな恋心、肌と肌が触れ合った際の、戸惑いと陶酔。「なんだろう? この感じ……」 どこかいびつな静寂の世界でみずみずしく描かれる、性への目覚め。
ペンネームにも象徴される、ゆるーくやわらかなタッチと感性で、ふみふみこはセクシュアリティやあらゆる世界の規範にふわふわと揺さぶりをかける。
ちなみにこれを読んでいるとき、偶然、家人が坂本慎太郎のアルバム「ナマで踊ろう」を流していて、そのハマり具合にクラクラしてしまった。「わたしからしたらみんなのほうがへんだよ」という、さくらの抱える違和感は、たんなる思春期のソレだけではないのだ。
あるいは、この独特のSF観は、語り口こそ違えど、「世界をどのように認識するか、がSFである」と定義し、「私は男でも女でもないし、性なんかいらないし、ひとりで遠くにいきたいのだ」と願った、鈴木いづみを彷彿させたり。
いずれにしても、この世界の秘密とは? 彼女たちの運命と未来は!?
物語はまだ序盤で謎だらけだけに、今後の展開から目が離せない!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69