人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、雲田はるこ先生!
最新刊9巻も発売され、TVアニメも絶賛放映中の落語家マンガ『昭和元禄落語心中』。
インタビュー第2段では、作者の雲田はるこ先生に製作秘話や貴重なアシスタント時代のお話、気になるラストまでの展開などをうかがいました。
読めば作品がより楽しめること間違いなしのインタビュー第2段、いざ幕開け!
タイトルの由来と 世界観に漂う「昭和感」
――この『昭和元禄落語心中』というタイトルは、どのタイミングで決まりました?
雲田 連載開始の直前、ギリギリです。
担当 「人情落とし噺」と「昭和元禄落語心中」が最終候補でした。
――「人情落とし噺」は「ITAN」公式サイト内の『昭和元禄落語心中』のページでキャッチコピーとして使っていますね。
雲田 『昭和元禄落語心中』だと「まんますぎるかな?」って思っていました。
担当 漫画家さんって、けっこうタイトルで「ベタすぎるかな?」とか「臭すぎるかな?」って思うみたいですね。でも『昭和元禄落語心中』のほうが、わかりやすくていいと思います。
雲田 最初から「落語心中」という言葉は浮かんでいたんですけど、それだけだとさびしいかな、と思ったんですね。それで語感を合わせる意味でも「昭和元禄」をつけました。
――最近は「昭和元禄」って、あんまり聞かない言葉になりましたよね。
雲田 そうですよねぇ、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「昭和元禄ダンチョネ節」[注1]、以来聞かないですよね(笑)。
――昭和39年の高度成長期に、福田赳夫氏が言った言葉[注2]ですからね。
雲田 昭和の骨太感を出したかったんですよ。――かといって実際の昭和の時事ネタを入れちゃうと、懐かしむ事が目的のマンガになってしまいそうなので、そういうのはあえて避けるようにはしてます。
――「江戸っぽさ」じゃなくて、「昭和感」なんですね。
雲田 はい。浅草をたくさん出してるのもそういう意味づけです。
――作中の舞台設定も、浅草に新宿末廣亭[注3]があるような感じ。
雲田 そうですね、落語を感じられるロケーションを選んで、どこか虚構的というか、現実っぽくならないようにしてます。子どもの頃からよく行ってたので、浅草は好きですねぇ。かなり意識してます。町自体が文化的に独立してておもしろいし、浅草にしかいないようなユニークな方がたくさんいます。『落語心中』は浅草でないと成り立たない気がします。
――「昭和感」って、なんでしょうね? おそらくノスタルジーを描いているわけではないと思うんですが……。
雲田 単純に好きなんです。さっきのダウン・タウン・ブギウギ・バンドもそうですけど、70年代の文化が特に無性に好きで。それから落語の大名人と呼ばれる方々も、昭和の方の音源が多く残ってまして、やはり耳なじみがありますし、そういう雰囲気を出したいんだと思います。
――古典落語って、江戸時代が題材だと思われがちなんですけど、じつは明治や大正、昭和初期くらいの噺もあるじゃないですか。わりと年代が特定できない。それと『落語心中』の世界は、地続きな感じがします。
雲田 ああ、そうだとうれしいですね。私が寄席に行くのも、江戸というより昭和を感じたくて行くようなところがあるかもしれないです。
――遅く行くと「半額でいいよ」って言われたり。
雲田 そういうところが昭和っぽいですよね(笑)。
- 注1 ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「昭和元禄ダンチョネ節」 宇崎竜童率いるロックバンド「ダウン・タウン・ブギウギ・バンド」が出した1976年発売のアルバム『あゝブルースVol.2』のなかの1曲。
- 注2 昭和39年(1964)にのちに首相となる福田赳夫(たけお)が「天下泰平」「奢侈(しゃし)安逸」の時代を江戸時代の元禄期に喩えて言った造語。
- 注3 新宿末廣亭 新宿三丁目にある老舗の寄席。創業は明治30年(1897年)。都内に4軒ある定席寄席のうち唯一木造の建物で、伝統的な佇まいにも人気がある。