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こうの史代先生『この世界の片隅に』インタビュー  祝!劇場アニメ化正式決定!! なんと、クラウドファンディングサービスで国内史上最高額3622万円到達!?

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2015/06/12



「調べる」ことは物語の血。そこから作品が動き出す


――事実の積み重ねのなかにフィクションのキャラクターを配置した物語を作り出す、という作業は、大まかにどのような手順で行われたのでしょうか。

こうの 大事なのは、間違いが許されないということなんですね。「戦時中もの」は、まだ生きている人がいて確かめてくれる人がいるので、ウソがない作品にすることに気をつかいました。作品を描く前に用意したすずの年表があるんです。

――おおっ、それでこの緻密な年表ができあがったんですね。

緻密な年表について説明してくださった。その時期に起きた出来事や、新聞や雑誌の記事などがスクラップされている。

緻密な年表について説明してくださった。その時期に起きた出来事や、新聞や雑誌の記事などがスクラップされている。

こうの 連載期間を決めていたので、まず最初に年表を作って、そのなかでキャラクターをパズルのように動かしました。見開き1ページで1ヵ月分の年表ですね。左に2冊の年表と、右に呉の年表を。そしてあとで私が調べたものを書き足しました。年表で砂糖の配給がここにあるから、この話に砂糖の話を入れよう、とか。メインが生活の話なので、衣食住がバランスよく配置されるように気をつけました。あと、わりとキャラクターが多いので、出番のバランスを考えるとストーリーがだいたい決まってくるんですね。

――年表を作って史実に沿って描くのはこれまでにもやっているんですか?

こうの 実際に起こったことを絡めて計画的に描いたのは初めてですね。

――実際にやってみてどうでしたか?

こうの どういう方向に進んでいくかを間違うとたいへんなので、神経を使いましたね。 8ページで毎回オチをつけなければいけないですし。笑える要素が少ないにもきつかったですね。

――特に気を使ったところ、創作するうえで難しかったところはありますか?

こうの 戦時中の思想です。今の世のなかでは通用しないもの、ある程度否定すべき要素が入っていますよね。そういう要素をなるべく入れないように作るのが難しかったです。たとえばこの「愛国いろはかるた」[注6]は本物なんですよ。使うと決めたはいいけど、全部見たことがなかったんです。他国をあからさまに軽蔑するような表現などがあったら使うまい、と思っていたのですが幸いそういったものが少なかったので全文を引用することができました。竹やり訓練のシーンでも、実際にはチャーチル[注7]の似顔絵とかを的にくっつけてやっていたんですが、そういうのを描くとこの戦争特有の要素が入る気がしたので、あえて描きませんでした。

「愛国いろはかるた」を初めて見る読者も多いのでは。意外と戦争色がないものも多く、「笑顔と笑顔で明るい職場」とか、今でも使えそう。

「愛国いろはかるた」を初めて見る読者も多いのでは。意外と戦争色がないものも多く、「笑顔と笑顔で明るい職場」とか、今でも使えそう。

――普遍的な感情を持ってほしいと。

こうの はい。読者の方がもっと普遍的になるべく感情移入できるように、特定の国や人物を描かないようにしました。

――作品創作において、「調べる」ということをどのように感じていらっしゃいますか。

こうの まずマンガを描く時に、描きたいテーマを決めてそれに合う器を考えます。『日の鳥』[注8]もそうですね。1コマの形態をとってますけど、それが一番向いているかなと思ったんですね。『この世界』の場合は、戦時中の生活をテーマにしたいので、すずさんをボケキャラにすればまわりがいろいろと教えてくれるから話が進みやすいかな、とかを考えました。 「調べる」というのは物語の血みたいなもの。調べることで、作品の心臓を動かして、常に新しいものを取り入れて作品が生きたものになっていくと思います。

――非常に難しいテーマですし、心理的にもたいへんだったのではないかと思います。

こうの そうですね。ただ戦争ものというのは、なるべくたくさんの人が描けば、よりたくさんの方に届くのではないかと思っています。私もそのなかのひとりというつもりで描いていました。戦争に対して作者それぞれ切り口が違うでしょうから、より多様なものができるのではないかなと思っています。今度の劇場アニメーションも、マンガとはまた違った切り口になるのではないかなと期待しています。

アニメーションの片渕監督は私が行く方向にともる灯り

――アニメ映画化のオファーがあった時はどういう気持ちでしたか?

こうの 思い入れの強かった『この世界』のアニメ化ということで、片渕監督からお手紙と『マイマイ新子と千年の魔法』のDVDをいただいて、すごくびっくりしました。うれしくて、お手紙を枕の下にしいて寝ましたね。

片渕監督の代表作『マイマイ新子と千年の魔法』。感受性豊かな子どもの世界をファンタジックに描いた感動作。

片渕監督の代表作『マイマイ新子と千年の魔法』。感受性豊かな子どもの世界をファンタジックに描いた感動作。

(C)2009 髙樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会

――片渕監督のことはご存じだったんですか?

こうの お名前は存じあげなかったです。ただ、プロフィールを見た時に『名犬ラッシー』[注9]の人だ! と思ったんですね。世のなかには悲しいこともいっぱいあって、腹の立つこともいっぱいあるんですけど、せめて作りもののなかでは日常を美しく見えるようなものが見たい、という思いがあります。これは監督の作品からも感じていたのかな。『この世界』もそういう気持ちで描いていました。

――片渕監督の初監督作品である『名犬ラッシー』をご覧になっていたんですね。

こうの はい。『ラッシー』は大事件が起こってないのに、居心地がいいアニメーションだなと。この人たちにまた会いたいと思える、次の週が楽しみなアニメでした。ラッシーと離ればなれになるまでが長くて、ずっと一緒に遊んでるんです。でもそれがおもしろくって。この犬と離れたらさびしいだろうな、という気持ちになるんですよね。それまでの『ラッシー』では考えることのなかった「人間側のつらさ」を描いた作品だったと思います。そういうところがすばらしいと思いました。私もそういうやりかたが理想なんですけど、「実際にやってる人がいるんだ、すごいな!」と思いましたね。

――印象に残っているシーンはありますか?

こうの 雨が降って地面に水がたまっているシーンが好きでした。その後、自分の連載でカッパの女の子を主人公にした『かっぱのねね子』[注10]を描いたんです。2001年ですかね。『ラッシー』のシーンから影響を受け、大水にあってるシーンを描きました。

単行本未収録の『かっぱのねね子』の貴重な掲載誌を拝見! ねね子、かわいい。波に乗る姿はちょっとポニョも彷彿とさせる!?

単行本未収録の『かっぱのねね子』の貴重な掲載誌を拝見! ねね子、かわいい。波に乗る姿はちょっとポニョも彷彿とさせる!?

『かっぱのねね子』(「おおきなポケット」2001年10月号 福音館書店)

――片渕監督の印象は?

こうの 人生というのはもともと真っ暗な道で、真っ暗ななかに「こういう人になりたい」「こういうものが作りたい」という方向にだんだんと灯りがともってゆくようなものだと思うんですが、監督の作品はまさに私のゆく手の灯りだったんです。その灯りに住んでる人から手紙がきたのでとても驚きました。『この世界』を描いている間は、ひとりで戦時中に暮らしているような孤独な気持があったので、一番見つけてほしかった作品を見つけてもらえた感じがしました。

――アニメ化に際し、どのような期待を持っていらっしゃいますか。

こうの 作品は、漫画家にとって子どもみたいなものなんです。読者は子どもの友だちみたいなもので、映画化や小説・舞台化というのは私のもとを離れて、別の人と結婚するようなものだと思うんです。『この世界』は愛情を注いで一生懸命描いた作品なんですが、私が描いたことで、前作『夕凪の街 桜の国』の二番煎じととらえられている不運な作品だったと思っています。今回アニメ化するということで、そんな作品がいい人と結婚したな、と。 私の手を離れて、さらにいろんな人に出会っていって、もっと成長していく作品なんだなと思っています。楽しみにしつつ、読者のみなさんと一緒に物陰から見守らせていただきます。

――どんな世代の方に劇場アニメ『この世界の片隅に』を見てほしいですか。

こうの マンガはひとりで読むものですが、映画になるとたくさんの人と一緒に見てもらえるので、いろんな世代の人と見て共有してもらいたいですね。

――誰かと話したくなりますよね。

こうの 見終わったあとに語り合ったり、というのは映画ならではだと思います。

――最後に片渕監督へメッセージを。

こうの 私は、片渕監督のずっと後ろをきてたと思うんです。監督はなにもないところを手探りで進められて、さぞたいへんな思いをされていると思うんです。監督の作品について思ったのが、“お子様ランチに旗を立てない人”。なんの脈絡もないことはやらない人なんだろうな、と。そういうところがすてきだと思う一方、根詰めして身体を悪くされるのではないかと心配で……なので体は大事にしていただきたいです。


片渕監督からコメントをいただきました!

これまで「日常生活の機微」を描きたいと思い、『マイマイ新子と千年の魔法』などの作品を手掛けてきました。
『この世界の片隅に』は、“戦争・戦災”と“普通の日常”という対極的なものが存在しあっている世界が描かれています。その対比により、自分が描きたかった「日常生活の機微」がより色濃く見えるのではないかと思いました。
自分にとっては運命の作品です。『この世界の片隅に』は切実な愛おしさがある作品で、どこを読んでも泣ける自分がいます。すずさんは、毎日を普通に生きてるつもりなんです。外にいる僕らは、そのことがどれだけ愛おしいか、輝いているのかを振り返る立場にある。そのすずさんの人となりを大事に、『この世界の片隅に』を創りあげたいと思います。

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  • 【注6】「愛国いろはかるた」 太平洋戦争中の1943年12月に発行されたかるた。子どもたちに国の政策と戦争に賛同する意見を持たせることを目的に作られた。
  • 【注7】チャーチル イギリスの政治家、作家のウィンストン・チャーチルのこと。1940年からイギリス首相の座に就き、1945年まで太平洋戦争を主導した。当時の日本は本土決戦が起こった時のために、一般の主婦たちにも竹やり訓練をさせていた。竹やり訓練の的にはチャーチルなどの敵国首相の似顔絵が貼られてあった。
  • 【注8】『日の鳥』 東日本大震災の時に行方不明になった妻を探す雄鶏の姿を描いた、こうの先生の作品。1枚のスケッチに短文が添えられる形態で2012年より「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)で連載された。
  • 【注9】『名犬ラッシー』 1996年1月14日~8月18日までフジテレビ系「世界名作劇場」枠で放映されたテレビアニメ。全26話(本放映時は25話まで)。名犬ラッシーの旅がメインの原作とは違い、ラッシーと少年ジョンの生活をメインに据えたストーリー。片渕須直監督の初監督作品。
  • 【注10】『かっぱのねね子』 福音館書店刊行の絵本雑誌「おおきなポケット」(現在休刊中)に連載された、こうの先生の作品。カッパの女の子・ねね子の暮らしを描く。単行本化が期待される1篇。

単行本情報

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