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『大逆転裁判』ディレクター・巧 舟氏×シャーロック・ホームズ研究家・北原尚彦氏 スペシャル対談! 「ワトソン」?それとも「ワトスン」? 頭を悩ます翻訳問題【総力リコメンド】

2015/07/22


大好評発売中のゲーム『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』のディレクター・巧 舟氏と、パスティーシュの執筆から翻訳まで、多数のシャーロック・ホームズ関連書籍を著作に持つ・北原尚彦氏のシャーロッキアン対談が実現!

原作が英語で書かれているため、「ワトソン」などのキャラクター名の翻訳にも、頭を悩ませたという巧さん。その翻訳の工夫や、ホームズのドラマやパスティーシュなど、様々な方面に展開しているホームズについて、たっぷりお話しいただきました。

前回の記事はコチラ

ゲームデザイナー:巧 舟(たくみしゅう)

1971年生まれ。早稲田大学卒。
94年、カプコンに入社。以降『逆転裁判』シリーズ、『ゴーストトリック』など、主にミステリのゲームの企画・脚本・監督を手がける。

Twitter:@takumi_gt

シャーロック・ホームズ研究家: 北原 尚彦(きたはらなおひこ)

1962年、東京生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。
小説『シャーロック・ホームズの蒐集』(東京創元社)、『ジョン、全裸連盟へ行く』(ハヤカワ文庫)ほか、古書エッセイ『SF奇書コレクション』(東京創元社)、『古本買いまくり漫遊記』(本の雑誌社)ほか、翻訳『ドイル傑作集』全5巻(共編訳/創元推理文庫)ほか、アンソロジー編纂『シャーロック・ホームズの栄冠』(論創社)ほか、多数の著書を持つ。

Twitter:@naohikoKITAHARA

ワト「ソ」ンかワト「ス」ンか? それが問題だ!

 『大逆転裁判』には、グレグソン刑事[注1]が登場するんです。

北原 おおっ!

 そのときに持ち上がったのが、「スン」か「ソン」か問題で。

北原 ああー、これは難しいんですよ……!

 いろいろ考えて、結局「グレグソン」にしたんですけど、頭のなかには完全に「グレグスン」でインプットされているんですよ。最終的に「ソン」になった原因はモチロン「ワトソン」「ワトスン」問題ですね。広く知れ渡っているイメージはワトソンだけど、僕たちシャーロッキアンは、「スン」のイメージだと思うんです!……いま勝手に僕たちっていっちゃいましたけど(笑)。

北原 もちろん、その気持ちはわかりますよ(笑)。

 一般的になじみがある「ワトソン」に決めたあとに、今度はグレグソンが登場することになったので、「ソン」にせざるをえなくて、ものすごく違和感がありながら書きました(笑)。

北原 発音の問題は難しいです。私もヴィクトリア朝のホームズのパスティーシュを書くときは、「ワトスン」にしているんですけれど、現代版のパスティーシュを書く時は「ワトソン」にしているんです。ドラマの『SHERLOCK/シャーロック』[注2]が「ワトソン」と表記しているので。

北原さんがご執筆された現代版パスティーシュ。

北原さんがご執筆された現代版パスティーシュ。

 現代版のパスティーシュもお書きになられているんですね。現代版ドラマの『SHERLOCK/シャーロック』は、ファーストシーズンは観ていたんですが、それ以降は観てないんです。自分にはないアイデアで描かれたホームズを見て悔しい思いをするし、ネタが被るのも怖いし。じつは、『SHERLOCK/シャーロック』のドラマが始まる前から、今作のアイデアがあったんです。「いつかシャーロック・ホームズが登場するゲームを作りたい」と思っていたので、「ここで現代版がくるか!」と思っちゃいました。

北原 でも、シャーロック・ホームズはネタが被ってもいいと私は思いますよ。パスティーシュでは同じネタを使っている作品なんて、いくらでもありますから。

 たしかに、そうですね。ただ、シャーロック・ホームズを研究されている北原さんから見ると、『大逆転裁判』の世界観や、ホームズネタはどう映っているのか、とても気になっています。

北原 私はスチームパンク[注3]のようなホームズなど、独自の世界観で作ってらっしゃることがおもしろいと思いました。

 ありがとうございます。シャーロッキアンの方には、やはり原典・原理主義な方もいるのでしょうか?

北原 原典そっくりなジョン・ディクスン・カー[注4]とアドリアン・コナン・ドイル[注5]の『シャーロック・ホームズの功績』[注6](以下、『功績』と略す)は好きだけど、茶化しているように感じる『シュロック・ホームズ』は嫌いだという人もいます。人によりけりですね。

『シュロック・ホームズ』シリーズの第1作。本家をカリカチュアライズし茶化して(ただし愛情をもって)描かれている。

『シュロック・ホームズ』シリーズの第1作。本家をカリカチュアライズし茶化して(ただし愛情をもって)描かれている。

 パロディやパスティーシュにも好みがあるということですね。北原さんはいかがですか?

北原 私はもう、ある程度の好き嫌いはあれど、昔からなんでもオッケーです。

 では、とくにお好きなのは?

北原 いやー、どれも好きですよ。先ほども名前があがった『功績』も好きですし、ドタバタ劇の『シュロック・ホームズ』も好きですし、フランスのコント作家が書いている『ルーフォック・オルメスの冒険』[注7]なども、大好きです。

――北原さんが翻訳されたアメコミで、ホームズとゾンビが戦う『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』という作品がありましたよね。

流れ星が上空を横切ったことで、突如“ゾンビ”が現れたロンドン。ゾンビの大群という難敵を前に、ホームズはいかにして戦うのか!?

流れ星が上空を横切ったことで、突如“ゾンビ”が現れたロンドン。ゾンビの大群という難敵を前に、ホームズはいかにして戦うのか!?

北原 そうですね。私は、ホームズがきっちりしてようがゾンビと戦おうが、おもしろければなんでもオッケーなんです。

 なるほど(笑)。

北原 本家の短篇集5冊、長編4冊の合計9冊を全部読んで「もうこれで終わりか、残念……」と思っていたら、「なんか違う作家のホームズ物もあるぞ?」ってパスティーシュやパロディの存在 に気がついて。以降、どんどん新しいホームズに出会うのが楽しみなんです。なので、それこそ東京創元社の『シャーロック・ホームズと宇宙戦争』[注8]だろうが、なんだろうが。

 宇宙戦争ですか!(笑)。

北原 ホームズが火星人と戦います。

 それなら『大逆転裁判』なんてかわいいほうですね。舞台はちゃんとロンドンですし(笑)。

北原 最近翻訳版が出た作品では、H.G.ウェルズ[注9]の『モロー博士の島』[注10]の怪物と戦う『シャーロック・ホームズ 恐怖! 獣人モロー軍団』[注11]もおもしろいですね。

 ああ、でもそれは時代感があっていいですね。ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』でも、ワトソンがブログを書いていたり、ホームズがニコチンパッドを常用していたりするのを見て、時代に合わせた設定の置き換えがすごくうまいと思ったんですよ。

北原 19世紀のシャーロック・ホームズは、指紋について言及したり、当時としては最先端の科学を使った捜査をしていましたから、現代に置き換えたら、ネットや最新機器を使いこなしているだろうというアプローチが『SHERLOCK/シャーロック』なんですよね。

 その発想はなかったですね。革命だと思いました。

北原 現代にシャーロック・ホームズを出すとしたら、100歳を越えているお爺さんとして出すとか、子孫を出すとか、あとは『帰ってきたシャーロック・ホームズ』[注12]のように、ホームズを冷凍保存しておいて、現代で復活させるなどいろいろな方法が考えられますが、ホームズをそのまま現代に置き換えてしまうというアイデアは、私もやられたなと思いましたね。

 アフガニスタンがまた、今と昔で意味合いが違うじゃないですか。「くそー!」と思いましたね。

北原 私もそれを観て「やられた!」と思って、あとは夢中になって観てしまいました。

 僕は逆に悔しくて観るのをやめました(笑)。

まだまだ終わりの見えないホームズ談義。お2人とも始終笑顔でした。

まだまだ終わりの見えないホームズ談義。お2人とも始終笑顔でした。


  • 注1 グレグソン刑事 『ホームズ』シリーズ第1作「緋色の研究」以降、度々登場するスコットランド・ヤードの警部。ホームズいわく、スコットランド・ヤードのなかではまともな警察官であるとのこと。
  • 注2 『SHERLOCK/シャーロック』 イギリスBBC製作のTVドラマ。ホームズを絶妙な味付けをして現代に置き換えた作品。主演のベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマンの人気は、本作で急上昇した。
  • 注3 スチームパンク 産業革命時代に発展を遂げた蒸気機関をベースに、テクノロジーが進化した世界観やデザインラインの呼称。
  • 注4 『シャーロック・ホームズの功績』 作者はアドリアン・コナン・ドイルとジョン・ディクスン・カー。アーサー・コナン・ドイルの実子であるアドリアンと、当時のミステリー界の大御所であるカーが手がけた傑作パスティーシュ。王道パスティーシュのひとつ。
  • 注5 ジョン・ディクスン・カー アメリカ合衆国の推理作家。『三つの棺』など、数多くの密室殺人小説を執筆しており、その著書は80作を越える。
  • 注6 アドリアン・コナン・ドイル アーサー・コナン・ドイルの三男。カーとの合作で『シャーロック・ホームズの功績』を執筆したほか、コナン・ドイルの遺した資料を整理し、伝記を執筆した。
  • 注7 『ルーフォック・オルメスの冒険』 フランスの作家ピエール・カミが創造した、名探偵が主役のコント。謎解きよりもナンセンスなジョークの数々が持ち味。ちなみに、「オルメス」とは、「ホームズ」のフランス読みで、、「ルーフォック」とは、フランス語で「頭のおかしい」という意味を持つ。
  • 注8 『シャーロック・ホームズと宇宙戦争』 マンリー・W・ウェルマンとウェイド・ウェルマン親子によるSF小説。ギャグかと思われかねない組み合わせだが、『ホームズ』『宇宙戦争』それぞれの設定の融合具合が巧みで唸らせられる。
  • 注9 H.G.ウェルズ イギリスの作家。『タイム・マシン』や『宇宙戦争』、『透明人間』など、その後のフィクションから現実社会にまで影響を与える数多くのSF作品を執筆した。
  • 注10 『モロー博士の島』 生物学者であるモロー博士の実験により誕生した、知性を持つ獣たちの住む島が舞台のSF小説。ドン・テイラー監督、バート・ランカスター出演の『ドクター・モローの島』(1977)ほか、複数回映画化されている。
  • 注11 『シャーロック・ホームズ 恐怖! 獣人モロー軍団』 ガイ・アダムス作。モロー博士と関係のあるらしい事件がロンドンで発生していることを危惧したマイクロフトが、シャーロックに真相の解明を依頼するところから物語が始まる。それにしても、つくづくウェルズと縁が深いホームズである。
  • 注12 『帰ってきたシャーロック・ホームズ』 1987年製作の、ケヴィン・コナー監督によるTVムービー。冷凍保存から現代に蘇ったホームズが、見慣れない現代社会に苦労しつつも事件に立ち向かっていく。

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