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【インタビュー】 魚は、ほかの動物より甘く見られている…? 『足摺り水族館』 panpanya 【後編】

2014/06/02


魚は「甘く見られている」……?

――『足摺り水族館』の作中には、タイトルのとおり、魚が多く登場します。やはり魚はお好きなんですか?

panpanya 好きだから描いているのかというと、そうでもないんですが、魚は好きですよ。魚の甘く見られてる感じが好きです。

――と、いいますと……?

panpanya 魚は無抵抗な感じがします。ことわざのとおり、「まな板の上の鯉」みたいな感じが。殺される瞬間でも平気なツラをしてるのがいい。喜びも悲しみもない感じ。

――このイラスト(『足摺り水族館』P.52)のような感じですか?

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panpanya ああ、そうですね。よく思うんですけど、マグロの解体ショーって人気がありますよね、見世物として。カツオの一本釣りとかにしても、「男が海と戦う」みたいに、かっこよく描かれます。あれだって、犬の解体ショーとか犬の一本釣りになると、極悪人でしょう?

――それはそうですね(笑)。

panpanya 魚は……、虫の次くらいかな? アリとかだったら、踏みつぶしてもそんなに非難されない。魚も、まあギリギリOK、遊びで魚釣りするくらいだし。でも犬のような哺乳類を痛めつけてたら、「ちょっと!」ってなりますよ。

一同 (笑)

panpanya 料理人が魚をさばくときは、かっこいいBGMが似合います。職人の技!みたいな、和太鼓や笛とかのね。でも、犬を殺すときにかっこいいBGMが流れたら、そりゃあすごいブーイングが起きますよ。アジの開きとか、冷静に考えると生き物の体を真っ二つに割った死体ですが、あれを平気な顔して食べながら「犬をいじめるなんてかわいそう!」っていう感情が成立している。

――確かに(笑)。ちなみに魚は、食べるのもお好きなんですか?

panpanya そうですね。なので魚が好きというのは、別に動物愛護的な意味合いとか、魚をもっとかわいがれよ、とかではなく。こういう辻褄の合わない状況に対しても無関心なスタイルが、味わい深いという点においてです。

――そういえば作中には、サメの図鑑が出てきますね。

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panpanya あれは、昔の魚類図鑑を読んでいたら、サメの解説に“ねりものの原料になる”という文章が載っているのを見まして。

――ああ、まさに『足摺り水族館』の図鑑ページにも、「かまぼこの原料になる」とか「さつまあげの原料になる」とか、ねりものに関しての解説が書いてあるんですね。

panpanya そうです。あれに関しては、全て魚類図鑑に書いてある文章に忠実に書いたので、本当の内容ですよ。その図鑑を読んで「それはないだろう」って思ったので。

――たしかに、ヒツジやイノシシの解説文に、調理方法が書いてある動物図鑑は、あまり見ない気はします(笑)。

panpanya そういうところも「魚だから通用するのかな?」ってなる。魚はほかの動物より一段下に見られているという、そのへんがおもしろいなぁ、って思っているんです。

――魚のほかには、ちょっと昔の扇風機など、レトロな雰囲気を漂わせた小物が出てきますが。

panpanya やっぱりいい具合に劣化するもの[注6]は好きですね。かといって、レトロなものが特別好きというわけではないです。レトロ臭がぷんぷんしているものはむしろ避けるかもしれません。昔のものって造りが贅沢だったりいい素材使ってたりしますからね、いい劣化の味わい出てるものが多いですよ。そういう「ものとしてのよさ」には惹かれるし、描いてしまいますね。古い扇風機は全身鉄製で重厚感があり、いいものだなと思います。

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――なるほど。船もよく描かれていますが、やはりお好きなんですか?

panpanya 乗り物は全部好きですよ。潜水艦とか。

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――「乗り物が好き」の第一声で、潜水艦が出てくるのは、意外と珍しいのでは。

panpanya いってしまえば、丸い人工物はだいたい好きです。金属で重厚な丸い質感の機械、潜水艦。いいですね。あと、回るもの。プロペラ、車輪、コマ、ヨーヨーとか。だから扇風機も好きなんですね。

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「寝入りばなに見る夢」

――単行本版『足摺り水族館』の帯に、「寝入りばなに見る夢のような作品たち」という一文が書いてありますが、本当にそんな印象を受ける作品群ですね。

panpanya その帯の文章、見事ですよね。

1月と7月 これは、資料性博覧会[注7]を担当している、まんだらけの國澤 (くにさわ) さんにお願いしました。

panpanya 「寝入りばなに見る夢」って、ディテールのはっきりしたところは極めてはっきりしているのに、嘘のところは嘘でしかない、でも夢のなかではそれに気づかない、というような。

――「道行く人はみなフランスパンをかじってる」「フランスだから当たり前か」のシーン(『足摺り水族館』P.174)とか、そんな感じがします。

panpanya そのくらいの認識のものって、よくあるじゃないですか? 外国人が「日本には忍者がうじゃうじゃいる」と思ってるとか「メキシコにいったらサボテンばっかり」とか……、知らないけど、知らないなりにリアリティを持って空想しているわけです。夢もそうで、脳のなかのリアリティだけを頼りにディティールを作っています。自分が感じ取ったことのあるリアリティこそ、人はリアルに感じる。だけど、自分がどうでもいいと思っていることに関しては、いい加減じゃないですか。さっき話した背景についてもそうでしたけど、本当に描きたいストーリーの本筋やこだわるポイント以外は、けっこう適当に描いていたりします。だから読んだ人が、「夢」っぽく感じるのかもしれません。

『足摺り水族館』P.174より

『足摺り水族館』P.174より

――なるほど。では、そんな作品を描かれるpanpanya先生が、影響を受けた作品――特に好きな作品など――はありますか?

panpanya 特に、と言われると、新美南吉です。

――『ごんぎつね』の?

panpanya そう。有名どころの『ごんぎつね』とか『手袋を買いに』以外にも名作がたくさんあります。やるせないような、妙な哀愁のある、でも根が明るくて優しく、湿っぽくない話が多くて好きですね。

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――小さいころからお好きだったんですか?

panpanya 小学生くらいの時、家に新美南吉の童話の文庫本があって、最初は「ああ、『ごんぎつね』の人か」、くらいの感じで読み始めたんですけど……「これはすごい」と。複雑な感動がありましたが、形容し難い味わいで、ただ何度も読むしかありませんでした。あと、『魔の四角形[注8]という児童文学作品があるのですが、それも大変好きで何度も読んでいました。子供が町の住宅密集地帯で迷子になる話で、景色や町並みに対する興味の出発点は間違いなくこの作品だったと思います。いまでも時々読みます。

――では、漫画作品で影響を受けた作品となると?

panpanya うーん…(長考)…。娯楽として、音楽や映画なんかに対してもそうなんですけど、あんまり熱心に視聴しないんですね。がつがつ読むわけではないのですが、数は人並みには読んでいると思うので、知らず知らずにいろいろな影響を受けているのだと思いますが。すみません、ぱっと出なくて。

1月と7月 まあ、普通に漫画家さんだけから影響を受けて、これ(『足摺り水族館』)に到る感じはしないですよね。水木しげるさんやつげ義春さんっぽいとよく言われているのを見ますが、そうですかね……?

panpanya つげ先生の作品は少し読んだことがありましたが、水木先生の作品に関しては、マンガを読んでくれた知人に「好きそうだから」と薦められたのがきっかけで読み始めました。マンガを描くようになって、アンテナは広げるようにしてます。あ、あと竹本泉先生の作品は好きですね。

1月と7月 えー!

panpanya かわいいし、なんだか変な話なのに、軽やかで。『ルプ☆さらだ[注9]が一番好きです。全然リアルタイムで読んだわけではないのですが、影響を受けているかもしれません。こういう言い方も、なんというか、おこがましいかもしれませんが……。

  • [注6]劣化するもの 詳しくはインタビュー前編2を参照。
  • [注7]資料性博覧会 資料性の高い同人誌を扱う即売会。panpanya先生を1月と7月の担当者さんに紹介したのも、資料性博覧会の担当者さん(参照:インタビュー前編1)。公式Twitterアカウントは@siryosei_expo
  • [注8]魔の四角形 正式タイトルは『魔の四角形 見知らぬ町へ』。ミステリ作家・武宮閣之による児童向け作品で、1991年10月に文溪堂から刊行。第1回「ぶんけい創作児童文学賞」受賞作品。
  • [注9]ルプ☆さらだ 竹本泉によるマンガ作品。講談社『Be Love パフェ』に1990年3月号から1991年に3月号にかけて連載された。主人公のサラダが、日常の些細な出来事に疑問を抱き、父を質問攻めにすると、叔父(父の弟)が自身の思い出(ただし空想の物語)をもとにした解説をしてくれる、というのが大まかなストーリー。1996年には、同作品のキャラクターを使用したPlayStation用ゲームソフト『るぷぷキューブ るぷ☆サラダ』もリリースされている。

単行本情報

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