宝石のキラキラ表現に魂を注いで描いています
――宝石たちは神秘的な妖しい魅力があって、とてもセクシーに感じます。性別がないという設定ですが、どんなイメージを持って描いているのでしょう。
市川 上半身は少年、下半身は少女を意識して描いてます。鉱物の無機質無生殖といった“ないないづくし”を表現するにはいちばん「色っぽい」のではと判断しました。

すらりと伸びた長く細い手足と、丸みを帯びたヒップライン。このアンバランスさが宝石たちの個性的な存在感になっている。
――なるほど……身体的な性的特徴がない部分を選択することから生まれるエロティックさ、たしかにありますね。造形デザインで苦労した点はありますか?
市川 ダイヤモンドのとろんとした目と太眉。私の思う「かわいいとは何か」を全投入しようとすごく苦労したぶん、気に入ってます。

フォスにもなにかと親身になってくれる優しいダイヤモンド。かわいい顔で一人称が「僕」なのもいい!
――ダイヤモンドは見た目も性格もかわいいですよね。ダイヤモンドが出てくるシーンはなごみます! たまにこういうリラックスした日常描写が出てくるのも楽しみどころです。
市川 そこは、読んでて楽しいとこもないとねと思いますから。
――それにしても、ときどきモノクロだというのを忘れるくらい、画面がキラキラ輝いて見えるのがすごいと思うんですよ。
市川 宝石の断面表現は、ほんと難しいです。思ってるよりギラギラさせないとキラキラして見えないんだからね!と、自分に言い聞かせながら描いてます。

一見すると私たち人間と似ている宝石たちだが、砕けた身体の断面は割れた宝石そのもの。
――そしてカラーの美しさは圧巻です! 電子書籍版1巻では6話のカラーイラストが完全収録されましたが、今後フルカラー版の刊行などはお考えですか?

宝石たちの美しさを最大限に楽しめるカラーページ。ぜひ「月刊アフタヌーン」本誌で楽しんでいただきたい。
市川 ありがとうございます。でもカラーはたいへんなので、あまり考えたくない気もします。
――カラーといえば単行本発売時に公開されたアニメーションPV[注2]の出来もすばらしくて……制作過程でオーダーを出したところはありましたか?
市川 信頼している方にまるっと頼んだので、私から細かいオーダーは出していないんです。本当にありがたいことです。最初は自分で作るか……とか言ってたので、危ないところでした。
――原作の雰囲気そのまま、夢のような映像で……何度も繰り返し観てしまいます。
市川 すばらしいアニメーションに仕上げていただきました。最後のシーンが特にかわいいです。
――できればもっと観たいです! 作中ではまだ開示されていない謎もたくさんあると思いますが、そうした設定や物語のラストは連載前から作りこんであるのですか?
市川 一応いろいろ用意はするのですが、途中で変わってくることもありますね。描き進めながら感触とバランスをみて、その過程で決めることが多いです。
――宝石たちの敵である、作中の「にんげん」をどのような存在としてお考えでしょうか。
市川 それは今後ちょろちょろ公開していきますので、お楽しみにしていただければと思います。

フォスから「にんげん」という言葉を聞き、ふだん冷静な金剛先生もこの表情。「にんげん」とはなにか、今後の展開が気になるところ。
――そういえば、これは市川先生にとって初連載作なんですよね。立ち上げる時点で意識したことはありましたか。
市川 特にはないですね。連載ってたいへんなんだろうなと、ぼんやり思う程度で。案の定たいへんでした。
――『宝石の国』これからの見どころは?
市川 フォスの成長にご期待ください。
次回、独創的な世界を生み出す市川春子先生の漫画家としてのルーツに迫る!
【インタビュー】妄想がかたちづくる物語は、自分自身でも予測不能! 『宝石の国』市川春子【後編】
取材・構成:粟生こずえ