日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『球場三食』
『球場三食』 第1巻
渡辺保裕 講談社 ¥590+税
(2017年2月23日発売)
『ワイルドリーガー』、『熱球時代』、『OUT PITCH』、『神様がくれた背番号』など、数々の野球マンガを手がけてきたベテラン・渡辺保裕の最新作は、野球と球場と球場グルメをとてつもなく愛する男の物語だ。
野球観戦日は球場内で3食すませることを信条にする男=日下昌大(くさか・まさひろ)。1990年のブライアントの東京ドーム天井スピーカー直撃弾を小学生時代に目撃していることから推測すると、年齢は30代中盤といったところか。
全12球団のファンクラブに入り、全国の野球場をひとりでめぐることを唯一無二の楽しみにしている日下は、野球観戦を骨の髄まで堪能するため、たとえナイターであっても、食事は球場到着まで我慢。球場周辺で打っている持ちこみ用のグルメにもけっして手をつけない。
球場内でお金を落とすことが野球愛の証だからだ。
日下はあらゆる球場の座席位置を把握し、どこの店から攻めるのかもあらかじめ決めている。
神宮球場を例にとるなら、朝食(最初の食事)は外野コンコース「麺や秀雄」の辛味噌ラーメン、昼食(2番目の食事)は「後楽」の焼き鳥、夕食(3番目の食事)は「ルウ・ジャパン」のソーセージ・メガ盛り……ってな具合だ。
そして最大のポイントとなるのが、野球観戦に欠かせないビール。
生ビールにするか、缶ビールにするか、瓶ビールにするか。球場によってその選択肢はバラバラである。
生ビールを選んだ場合、売り子のスキルによって泡だらけになってしまうケースも。そうならないよう各球場のビール販売状況を熟知し、細心の注意を払うのだ。
このようにグルメ要素を前面に押し出してはいるが、基本的には野球場そのものを遊びつくすための詳細マニュアルであり、なによりも「野球観戦のすばらしさを伝えたい!」という気概にあふれた作品である。
タイトルの『球場三食』は「きゅうじょう・さんしょく」ではなく「きゅうじょう・さじき」と読む。「球場とは夢の桟敷」という意味が込められているのだ。
数々の野球マンガを生み出してきた渡辺の口ぐせは「およそ野球に関しては、漫画などという表現手法では到底語り尽くせない」(巻末インタビューより)。
そんな渡辺が球場グルメという変化球に見せかけてドストレートに野球愛をぶつけた作品、それが『球場三食』である。読んでいる最中から野球場へ行きたくてウズウズしちゃうことうけあいです。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。