『いぶり暮らし』第1巻
大島千春 徳間書店 \580+税
(2014年8月20日発売)
彼氏の巡(めぐる)は24歳のフリーター。彼女の頼子はカフェの店長を任されている26歳。2人は一緒に暮らし始めて3年目のカップル。仕事の都合もあり、ゆっくり過ごせるのは日曜日だけ。だからこそ、ごちそうを作って英気を養うのだ。
こうやってアウトラインをざっくり書くと、互いに思いやったり、家族のことでやきもきしたり、一緒に暮らしているからこその発見があったり……という、ごくごく普通の同棲モノという風情だが、ここに“燻製”というアイテムが加わることで新味を醸している。
元バーテンダーの巡と現役カフェ店長の頼子は自炊が得意。最近は家庭用の燻製鍋で、さまざまな食材を燻すことに凝っている様子。玉子、ソーセージ、チーズ、アジの開き、豚バラ、ししゃも、枝豆まで、なんでもかんでも燻まくる。どれもこれもお酒が進みそうで、辛抱たまりません! 燻製の手順も随所で解説されているし、家庭用の器具もお手軽な値段で買えるようなので、ぜひともチャレンジしてみたい。
さて、同棲3年目とはいえ巡はまだ時給で仕事をするバイトの身。一方の頼子は責任ある立場でバリバリ働いている。巡はまだまだ親がかりで子どもっぽい。頼子は自立心が強く、何かと世話を焼いてくる親を鬱陶しく思うこともある。そんな姉弟のようなカップルに、まだ家庭を作るという空気は漂ってこない。
とはいえ3年も経てば頼子も立派なアラサー女子であり、巡だっていつまでもフリーターというわけにはいかないだろう。ほんのわずかなモラトリアム。そんな大切な時間を、じっくりと燻しながら2人は過ごしているのだ。
簡単にできるとはいえ、燻製には時間がかかる。その燻しタイム(サスペンスドラマを見たり、格闘ゲームをしたり、散歩をしたり)を均等にコマ割りした8連のシークエンスで見せるなど、心憎い演出も光る。新人の大島千春にとっては、本作が初単行本。彼女もまた、巡と頼子を描きながら、漫画家として燻されていくのだろう。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」