『はじめましてのシルヴァンドル』
倉橋ユウス 集英社 \514+税
(2014年8月20日発売)
表紙からうけるイメージの見た目と違い、内容が難解で驚いてしまった。
中身をざっくり説明するのは難しくない。宇宙からやってきた無邪気な少女が、困っている人の前に現れて、優しく手を差し伸べ、相談に乗ってくれたり、不思議な道具を渡してくれたりする話だ。
やっていることは無差別な『ドラえもん』だと思えばいい。
このマンガは大きくわけて2つのパートにわかれている。
ひとつは謎の少女が、地球のいろいろなものに興味を持ったり、困っている人とドタバタやりとりをする4ページパート。もうひとつは彼女が巨大な問題を、謎の道具で人間と一緒に解決する長編パート。
4ページパートは「コーヒーが飲めない」とか「エスカレーターが好き」とか、本当にどうでもいいことにシルヴァンドルが執着しているだけ。ここだけ読めば、かるーいギャグSF作品なんだな、と錯覚してしまう。
冷静に考えてみれば、なんでも解決してしまうような便利な道具を、しれっと現れて渡すなんて、おかしいのだ。
長編パートを読んでいくと、彼女が「武器商人」であることがわかる。出てくるのは、地球に落ちてくる人工衛星を迎撃する機械、積もり積もったストレスを爆弾に変えてすっきり解消させるアイテム……基本的には人間にとって有益なものばかりに思える。
じゃあわりに合ってなさそうな商売を彼女が続けているのはなぜなのか? 「商人」という割に、どうにもシルヴァンドル側に利益があるように見えない。
後半、「シルヴァンドルから物を買うべからず」というフレーズが登場から、物語は一変する。
裏表のない純粋な彼女は、一見便利な道具で人を助ける幸せの送り手に見える。
しかし彼女の無邪気さには「善意」も「悪意」もない。人を救う道具も、宇宙規模の大型武器も、安価で渡してしまう。どちらも価値に差はない。相手が欲しければ、売る。その後何が起きようとも。
誰にでも笑顔の『ドラえもん』のような彼女は、裏を返せば、相手の不幸を考えない無邪気な『笑ゥせぇるすまん』にもなりうる。
ご利用は自己責任で。彼女は、ただの「商人」なのだから。
シルヴァンドルとはもともと、「きらきら星」のフランス語歌詞に出てくる、人の前に現れて相手の心を戸惑わせる、謎の存在だ。
この作品も読み終わった後、「きらきら星」のシルヴァンドルに出会ったように、出てきた少女は人間にとっていったいどういう意味を持つ存在なのか、戸惑うことになるだろう。
とりあえずひと通り読んでから、もう一度冒頭から読み直してほしい。彼女の行動一つひとつの見え方が変わるはずだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」