日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『芋虫少女とコミュ障男子』
『芋虫少女とコミュ障男子』
三三 KADOKAWA ¥600+税
(2017年7月27日発売)
カフカ『変身』のグレゴール・ザムザは、望まずして毒虫になってしまった。
しかしこの作品の菊尾すゞめ(きくお・すずめ)は、美人で頭がよくて優しくてみんなに愛されていたのに、自ら望んで醜い芋虫になった。
幼なじみの少年・梔子茜(くちなし・あかね)にフラれたからだ。
自分は性格が悪くて取り柄もない惨めな人間だから、すゞめみたいなよくできた人とつきあったら辛くなるという茜。
だからすゞめは「この世で一番みっともないもの、悲惨なものになりたい」と、神様に祈った。
意外と芋虫状態かわいいじゃん、愛さえあれば大丈夫……とまとまればいいのだが、この物語は残酷だ。
芋虫になったすゞめは、今でこそ姿が違うだけなものの、時が経つにつれて、どんどん人間ではなくなっていく。
文字の読み書きができなくなり、味覚が狂い、人が疎ましくなっていく。
茜のことが好きだから芋虫になったのに、彼のことが鬱陶しくてしかたなくなってしまう。
すゞめの願いを叶えた神様が登場してから、さらにコミュニケーションのひずみが深く描かれる。
神様はすゞめの願いごとを叶えた。
茜ら人間側から見れば、それはとんでもなく迷惑な行為だ。
では神様が行ったことは善なのか悪なのかというと、どっちでもない。
「望んだとおり」のことをしたまで。
神様はそれで多くの人間から嫌われ、せっかくみんなのことを助けてきたのに、だれにも愛されなくなった。
茜、すゞめ、神様。みんなうまく愛情を伝えられない。
各々だれかを傷つけ、自分が傷ついてしまって、苦しみ続ける。
ハッピーエンドともバッドエンドともいえないラストは、おそらく賛否両論あるだろう。
こじれすぎた少年少女の行きつく果てを、ぜひ見てほしい。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」