集英社文庫『ROOKIES』第1巻
森田まさのり 集英社 \638+税
今年のプロ野球、セ・リーグはレギュラーシーズンを2位で終えた阪神タイガースがクライマックスシリーズで下剋上を果たし、9年ぶりとなる日本シリーズ進出を決めた。
しかし日本シリーズでは1勝4敗でソフトバンクに完敗。日本一の壁は高かった。
さかのぼること29年前の1985年11月2日、阪神はパ・リーグ覇者の西武を4勝2敗で下し、2リーグ制以降、初の日本一に輝いた。
真弓、バース、掛布、岡田を擁する超強力打線を武器に破竹の快進撃を続けた猛虎軍団。虎キチたちが栄光の余韻に酔いしれた1日だった。
だがしかし、その後は長期にわたる暗黒時代に突入。『ROOKIES』は、阪神がどん底の状態にあえいでいた98年に「週刊少年ジャンプ」でスタートした(阪神はその98年から01年まで、4年連続最下位に甘んじている)。
基本構造はドラマ『スクール・ウォーズ』の野球版。熱血教師が不良の巣窟と化した野球部を建て直し、練習や試合を通じて部員たちが成長していく青春譚である。08年にはTBS系でドラマ化されて高視聴率を記録。09年の劇場版も大ヒットを飛ばしたのは記憶に新しいところだ。
本作の特徴のひとつが登場人物の名前。
作者の森田まさのりが大の虎キチであり、舞台となる二子玉川学園高校(通称ニコガク)の野球部関係者には、阪神タイガースゆかりの名がつけられている。主人公の教師・川藤幸一は川藤幸三、ピッチャーの安仁屋恵壹は安仁屋宗八×藪恵壹といった具合だ。そのほかにも若菜、御子柴、湯舟、新庄、桧山、今岡、関川、岡田、平塚、赤星、濱中……といったラインナップ。やはり00年前後に活躍した選手の名が多いですな。
物語は緻密な試合展開よりも選手たちの人格形成ドラマが中心。本来は現代国語の教師である川藤の口から次々に飛び出す格言が小気味いい。
恥ずかしながら筆者は「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」ということわざを、本作で初めて知りました。
『ROOKIES』は阪神が18年ぶりのリーグ制覇を果たした03年に連載終了。09年には劇場版の公開に合せて「週刊ヤングジャンプ」に特別読切『ROOKIES 夢のつづき』が掲載された。この後日談によると、安仁屋は阪神にドラフト1位で入団している。
ニコガク魂を貫いて虎を牽引するエースとなった安仁屋の姿も、いつか見てみたいものだ。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」