「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、映画「聲の形」
主人公の石田将也はやんちゃなガキ大将である。小学6年生のとき、聴覚障がいを持つ少女・西宮硝子がクラスに転校してきた。はじめは興味本位からちょっかいを出していた将也だが、次第にその行為はエスカレートしていく。
だが、ある出来事から、今度は将也が孤立し、硝子は転校してしまう。後悔の念を抱いたまま高校生に成長した将也は、硝子に再び会いに行くのであった……。
大今良時のマンガ『聲の形』は「障がい者へのいじめ」というデリケートな題材を扱った作品ながら、多くの読者から支持され、『このマンガがすごい! 2015』オトコ編では堂々の第1位に輝いた。
人間は、容易には変われない。しかし、お互いが向き合うことで、関係性を変えることはできる。その歩み寄りが、相手を知ろうとする行為が、ただ未来への扉を開けるーー、そういった力強いメッセージに、多くの読者が共感を寄せ、涙を流したのだ。
その長編アニメーション映画「聲の形」が、いよいよ9月17日から公開される。制作は京都アニメーション、監督は『けいおん!』や『たまこラブストーリー』を手がけた山田尚子。原作ファン、アニメファンともに首を長くして待っていた、今年最大級の話題作である。
アニメ化に際しての注目ポイントは、やはり「音」だ。
硝子は聴覚障がいによって聞こえにくく、将也は心を閉ざしたことによって周囲の声に耳を塞ぐ。異なる意味合いでの「聞こえない」状態が、作中では対比されていく。
声優が声を吹き込んだり音響効果がつくことによって、セリフが発声したものなのか、内省的なものなのかの区別が明確になり、とりわけ将也の「聞こえない」状態が丁寧に表現される。
原作では、将也が向きあっていない相手には、顔に×マークが貼られた(それはアニメ版でも再現される)が、それと同じことを音で表現する試みがなされているわけだ。このあたりはアニメならではの要素といえるだろう。
また、動的なカメラワークにも目を向けたい。
手話者は、相手の口元や表情を読み取ろうとするので、相手の顔をのぞきこむ動作が多い。うつむいたり、下を向くことが多い将也に対し、相手の顔をうかがう硝子。青春ラブコメによくある「すれちがい」の様子が、交錯してなかなかかち合わない視線によって描写される。
一般的に聴覚障がいは、他者とのコミュニケーションが取りづらいため、他者との関係性を築く際に“もどかしさ”を感じるケースが多いが、それをロマンスに応用しているのだから、そこに新鮮な“もどかしさ”を感じるはずだ。「何やってんだ将也!」と、劇場でみんないっしょに歯がゆい思いをしよう。
そして岐阜大垣をモデルとした美しい風景にも目を奪われる。
将也の通学路の田んぼには、夏には水が入って鏡のように日の光を反射し、秋には稲穂が実をつけてこうべを垂れる。それによって、見る側は時間の経過を察することができる。
本作において人間関係は重要な要素だが、関係性は時間の推移によっても変わるものだ。時間が経てば少しずつ受け入れて許せるようになることもあれば、時間が経ったことで気まずくなり言い出しづらくなることもある。時間経過の前後の、各キャラクターの距離感や言葉づかいの変化など、繊細な心の機微も見逃せない。
なお、扱う題材がデリケートなだけに、見る側は身構えてしまいがちだが、そんな必要はない。将也の友人“ビッグフレンド”こと永束君が、見事なコメディ・リリーフ役として大活躍するので、笑いどころも多いのだ。
笑って、泣けて、考えさせられて。
この作品から受け取った「こえ」を、友人や家族、親しい人たちと語りあってほしい。
映画「聲の形」を観たあとに……
何を隠そう、「このマンガがすごい!WEB」は、マンガの情報サイト! そんなわけで、映画「聲の形」をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガを紹介しちゃいますよっ。
『聲の形』大今良時
『聲の形』第1巻
大今良時 講談社 ¥429+税
(2013年11月15日発売)
本文中でも触れた大今良時の原作マンガ『聲の形』は、すでに完結している。全7巻と手頃なボリュームなので、原作未読の方はぜひ手にとっていただきたい。
原作では、前半部分は将也の一人称視点で物語が進んでいく。将也の内罰的なモノローグが多く、彼の心理的な変化の度合いを追うことができる。 後半は将也視点から、登場人物ごとの視点に切り替わり、各人物が他のキャラクターとどのような関係性を築いてきたかが綿密に描写され、群像劇としての色合いを強める。
モノローグの主がだれなのか、あえてわかりづらくすることでトリックを仕掛けたり、硝子の「きこえ」の状態を示すためにフキダシ内の文字のフォントを削ったり、読み返すたびにあらたな発見があるほどに多種多様なマンガ表現が用いられている。 その一部は『このマンガがすごい! 2015』本誌の巻頭記事でも特集したので、そちらの併読もオススメする。
『悪の華』押見修造
『悪の華』第1巻
『悪の華』押見修造 講談社 ¥429+税
(2010年3月17日発売)
主人公の春日高男は、同級生の美少女・佐伯奈々子に思いを寄せており、あるとき突発的に彼女の体操服を盗んでしまう。それを同じクラスで孤立した女子・仲村佐和に目撃され、高男は仲村からさまざまな要求を突きつけられていく。
ある“事件”を契機として散り散りになった登場人物が、高校生を卒業する前ーー大人になる直前に、過去と向き合うために再会を果たす……という構図自体は、『聲の形』とよく似ている。
本作『悪の華』は、作者いわく「純愛」を描こうとした作品なので、そのあたりにも注目しよう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama